3 実は出来レース

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3 実は出来レース

 この儀式では、王子が広間に並んだ優秀な婚約者候補達の前を歩き、一人一人から挨拶を受ける。  最後に気にいった娘の前に立ち止まり、最終的に婚約者が決まるというのが建前上の形式美である。  これまで何度か王家主宰の茶会や夜会でそれぞれの家の娘たちと交流は重ねてきている為、その性格や所作、知性や社交術は王子の中にインプットされている。  だがしかし。  政治的な背景等も含めてじっくり精査されているため、ほぼ出来レース。  王族の婚姻など国の為の一大パフォーマンスであり、一王子の思惑なんか知ったこっちゃないというのが本当の所である。  王宮の試験の厳しい採点を掻い潜り選ばれる10人。全てにおいて秀でているという王妃や王宮付き家庭教師のお眼鏡に叶った者達である。  言うならば、ここに立っている者達は王子の婚約者になれなくとも、このあと貴族間で折り紙付きの優良物件として引く手数多の存在となるのが道理である。  まあ、言うならば高位の貴族の質を保つために婚約者選定という枷を設け、各家で責任をもって後継者達の教育にあたらすのが本来の目的と言っても過言ではない。  王族の責務とはいえ王子や王女達にしてみれば、自分達は走る馬の前にぶら下がった人参のようなものである。  愛とか恋とかクソ喰らえの世界なのだ。  『いや、王族だからさ、どうせ好みの女性とか関係ないからねえ。だからってレージュ公爵令嬢は無いんじゃない? あのセンスがなぁ。性格は嫌いじゃないんだが』  控室から侍従を従え赤い絨毯を敷き詰めた廊下を会場に向かって歩く王子様。  美しくサラサラとした金髪に濃いブルーの瞳、少年の面影を少しだけ残した王妃によく似た面差しは、間違いなく正統派の美男子だ。  白い騎士服を模した王子の礼装に王族の印である赤いサッシュを肩から腰に向かって斜めに掛けた彼の姿は正にお伽噺に出てくる登場人物である。  ウェブ小説かも知れないが・・・
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