7 一方こちらはヒロインちゃん

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7 一方こちらはヒロインちゃん

 彼女は転生者だ。  そしてこのゲームのヒロインである男爵令嬢でもある。  ピンクブロンドに、薄いブルーダイヤのようなキラキラの瞳はこぼれ落ちそうに大きく、若干のタレ目で庇護欲を唆るような愛らしさ。  まさに乙女ゲームの正統派ヒロインらしい姿をしている。  そしてこの乙女ゲーム内では、彼女こそ攻略対象を食い散らかす肉食系主人公女子でもある。  城勤めの父親は領地を持たない俗に言う王宮貴族、つまりは文官である。  その為彼女は王城の文官塔にちゃっかり現れる事が出来るのだ。  そして、文官塔や騎士団詰め所、魔術塔。果ては王族の住む王宮内にまで迷い込むというお定まりコースで、どんどこ攻略対象者をつまみ食いしていくというバイタリティ溢れるお嬢さんである。  彼女は自分が、転生者だと知ったとき小躍りして喜んだものである。  なんてったって、この国の高位貴族のイケメンオールスターは、ほぼほぼ自分の攻略対象。よりどりみどりで逆ハーエンドもあり、隠し攻略キャラの隣国の王子と帝国の皇子迄、揃い踏みの筈である・・・  しかし、現実は甘くない。  用事もないのに父の勤める文官塔に紛れ込み、王城内の攻略キャラのおいでになる建物に繋がる中庭に日参するが、誰も現れない上に迷子になりに行きたくても文官塔以外には立入禁止で入れない。  どの建物にも入場許可証が必要だが、彼女は父のいる文官塔への許可証しか持っていないのであるからして、当たり前だ・・・  建物に近寄ったところで門番達に追い返されるのを散々繰り返した前歴を持つ彼女は、衛兵達に要注意人物として栄えあるブラックリスト入りしているのである。  「魔術師団長の嫡男も騎士団長子息も悪役令嬢の義弟も全然逢えないまま、今日はとうとう王子様の婚約者選定式じゃない! どういうことよっ」  イライラしながら爪を噛む男爵令嬢である。  
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