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1.
池袋駅のホームに降り立った時、突然、高波にのまれて息ができなくなる映像に頭の中を支配された。
呼吸のリズムが一気に崩れる。深い海の水底へとどんどん沈んで、このまま誰にも引き上げられずに死んでしまうのではないか。そんな風に思い始めて、指先が震えた。
不規則に入り乱れる人いきれの中で、絢斗は立ち止まることを余儀なくされた。最近は落ちついていたから大丈夫だと思ったのに、少し遠出をした今日に限って発作が起きた。
絢斗と同じように電車を降り、改札口へと急ぐ人たちが、うつむいたままその場に固まっている絢斗を鬱陶しそうに睨んでいく。次の電車を待つ人にはわざと肩をぶつけられた。
ホームドアが閉まり、乗ってきた列車が動き出す。歩き出さなきゃいけないのに、絢斗はきつく目を閉じた。
自ら作り出した暗闇の中で、赤や青、黄、白、さまざまな色がチカチカと光り、歪な円を描いて回る。耳の奥で、キィンと甲高い音が鳴り出した。
どうしよう。息ができない。
誰か助けて。
死んじゃう。僕、死んじゃう――。
「大丈夫?」
不意に、背中に優しいぬくもりを覚えた。
「苦しい?」
かけてもらった声は、透きとおった沖縄の海のように澄んでいた。柔らかく、落ちつきのあるテノールボイス。耳の奥で鳴り続けていた不快な音が少しずつ小さくなっていく。
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