2.

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「えっ、俺じゃん」  志が前のめり気味に画面を覗き込んでくる。  カメラを支えていた右手に、志の右手が重なった。一瞬、ふわりとシトラスがまた香った。  胸の鼓動が速くなる。顔は近いし、右手の甲に触れている志の手はあたたかい。優しいぬくもりが染み込んできて、指先が震えた。 「全然気づかなかった、撮られてたの」  志はついに絢斗からカメラを奪い取って、何枚か撮影した志の写真を順に見始めた。勝手に撮るなよ、なんて怒られるかと思ったけれど、志はただ熱心に、絢斗の撮った写真を見ているだけだった。  その隙に絢斗は青いノートとシャープペンを取り出し、志に伝えたいことを綴った。  志の肩を指でつつく。志の視線が絢斗をとらえると、絢斗はノートを見せた。 〈ごめんなさい。かっこよかったので、つい撮ってしまいました。迷惑でしたか?〉  志の写っていない写真も含め、今日撮ったものをSNSなどに投稿する予定はなかった。そもそも絢斗の持っているアカウントは発信用として機能させておらず、情報を得るためのツールとして利用しているに過ぎない。  仮に誰にも見せる予定がなかったとしても、写真を撮られることそのものが嫌いな人だっている。志がそうだったかもしれない。志の表情は穏やかなのでそうではないと信じたいが、嫌な気持ちにさせたのなら、データを削除しなければならない。  やや縮こまった絢斗を見て、志は吹き出すように笑った。 「素直なんだな、絢斗って」  素直? 絢斗は両眉を跳ね上げた。 「だってさ、『かっこいいから撮っちゃいました』なんて、普通言えないだろ、そんな簡単に」  そういうものだろうか。かっこいいと思ったのは本心で、伝えたらきっと喜んでもらえると思って言葉にしたのだが、間違いだったか。
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