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絢斗が高校生になったばかりの頃、とある日本人シンガーソングライターの楽曲が世界的に流行したことがあった。音楽性もさることながら、絢斗はその曲で歌われた歌詞に感銘を受け、以来、自分でも書いてみるようになった。
言葉を声にすることができない絢斗にとって、詩は自らの心を表現する方法として自然とからだに馴染んでいった。誰かに見せたり、ネット上で発表したりといったことはまだしたことがないけれど、趣味としてこのまま長く続けていきたいと思っていた。
絢斗の感じた素直な気持ちやささやかな願いが、少しずつ、一つの詩になっていく。何度も消しゴムをかけた箇所は紙が黒ずみ、それでも絢斗の手が止まることはない。形になるまで一気に駆け抜けるのが絢斗流だ。
納得のいく出来映えになった頃には、どれくらい時間が経っていただろう。
絢斗はとてもいい顔をして、まとめ上げた詩を新しいページに書き写した。タイトルははじめにつけた仮題『The light fall』をそのまま採用した。
「すごいな」
ペン先がノートから離れると、隣から驚きを多分に含んだ声が上がった。志を待たせてしまっていたことを今になって思い出して、絢斗はハッとして志を見た。
「見せて」
志の視線は完成した詩に釘づけになっていた。絢斗がなんのアクションも起こさないうちに、志は絢斗の左手から赤いノートをそっと奪った。
あたふたする絢斗の隣で、志は夢中になって絢斗の綴った詩を読んだ。一語一語、慈しむように指でノートの文字をなぞりながら、うっとりと目を細めている。
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