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「……The light fall」
ついに志が、絢斗の綴った詩にメロディーをつけて歌い始めた。
「降り注ぐ愛とぬくもりを」
その短いフレーズを聴いただけで、全身が震えた。
うまい。
話す時よりもなお透明感のある歌声。正確にとらえられた音程。ふわりと響かせるビブラート。
まだサビの半分にも到達していない。たったそれだけの短い歌で、絢斗は志の歌声の虜になった。
自分の書いた詩を歌ってもらえたことも嬉しい。けれどそれ以上に、志の歌声をもっと聴きたいと強く思った。
鳴りやまないでほしい。彼の奏でる音楽にいつまでも身をゆだねていたい。
絢斗の求めるような視線に気づいた志と目が合う。志はそっと口角を上げ、即興でサビの部分を最後まで歌い切ってくれた。
「どう?」
志が感想を求めてくる。
「いい感じ?」
絢斗はこくこくと、何度も何度もうなずいた。
いいなんてもんじゃない。最高だ。フラット一つの明るめなメロディーラインはエモーショナルで、アップテンポでもスローバラードでも映えそうだった。バックミュージックがついたら間違いなく泣いてしまう自信がある。
すでに潤んでいる目もとを拭い、絢斗はなにか言いたそうにもぞもぞとからだを動かした。こういう時、声が出せないことがもどかしくてたまらない。
仕方がなく、トートバッグから取り出した青いノートに書きなぐるようにして感想を綴った。
〈すごいです〉
一言目から、語彙力が消失していた。
〈歌、すごい。歌声きれい。上手!〉
思ったままを言葉にした。これ以上、なんと書けばいいのだろう。興奮していて、頭がうまく回らない。
「素直だなぁ、ほんと」
志は照れたようにはにかみ、「ありがと」と言った。男らしい顔つきの中に、幼い少年のようなかわいらしい表情が浮かんでドキッとした。
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