2.

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「いい詩だな。趣味なの? 詩を書くの」  絢斗はまだ興奮のさなかにいた。志の問いかけにはひとまずうなずいて、それより、といった風に志の腕をトントンとたたいた。  握った右手を顎に添え、少し前に出しながら人差し指を立てる。そのジェスチャーが終わると、今度は立てた右手の人差し指と中指をくっつけて口もとに寄せ、ゆっくりと開きながら右斜め上へと手を動かした。 〈もう一度、歌って〉  そう伝えるための手話だ。しかしうまく伝わらなかったようで、志は顔をしかめながら、今絢斗がやったとおりに自分でも手を動かした。 「最初のは……数字の一?」  絢斗はうなずき、両手の人差し指を右胸の前あたりでくるくると回す。〈くり返す〉を表す手話だが、わかってもらえただろうか。 「一を……くるくる。で、次が、こう……」  立てた二本の指を口もとから遠ざける仕草。そこまで実践して、ようやく志は「あ!」とピンときた顔をした。 「わかった、〈リピート〉だ! もう一回歌えってことか」  絢斗は笑顔でオーケーサインを出し、〈お願いします〉の手話をした。 「えぇ、ここで?」  絢斗は一瞬うなずきかけ、やめた。慌ただしく荷物をまとめ、ベンチから腰を上げる。  志を手招きするように、指で出口のほうをさす。もっと広い場所で、人の目を気にすることなく、大きな声でのびのびと歌ってほしかった。 「えっ、行くの?」  絢斗はうなずき、志の(かたわ)らに立てかけられているギターケースを指さした。どうせなら、ギターで伴奏もつけてほしい。  図々しいと自覚しながら、好奇心と欲望がとめどなくあふれて止まらなかった。  もっと、もっと志の歌を聴きたい。自分の書いた詩を歌にするんじゃなくてもいい。ただ志の歌を、優しくて美しい歌声を、誰よりも近くで感じたい。それだけだった。 「参ったな」  志は困ったように苦笑しながら、グレージュの頭をかいた。 「じゃ、行くか。せっかくだし、サビだけでもちゃんとした曲にしてみるよ」  OKをもらえ、さらに絢斗の心は弾んだ。志もどことなく嬉しそうで、二人は揃って水族館を出た。  絢斗はわかりやすく浮かれていた。  誰かとこうして同じ時間を共有するのは、ずいぶんと久しぶりのことだった。
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