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 気づかうように、後ろから両肩に手を置かれる。顔に近づいたその人の腕から、かすかに柑橘系の香りがした。  見知らぬ誰かが、深海へ落ちていく絢斗に手を差し伸べてくれている。絢斗は閉じていたまぶたをゆっくりと持ち上げた。  ぼやけた視界の中で、ほとんどゴールドに近いアッシュグレーのショートヘアが一番に目に映った。トップはストレートだがワックスで(たば)感を出してあり、サイドと襟足(えりあし)を少しだけ刈り込んだ、男らしい流行(はや)りのスタイル。  本来の視力を取り戻し、絢斗は青年の横顔に目を向ける。  大きくはないが、はっきりと線の走った二重(ふたえ)まぶたで切れ長の瞳。整えられた眉に、低すぎない鼻。口もとはきゅっと形よく締まっていて、顔全体のバランスが極めていい。髪型を踏まえると少々やんちゃな印象を受けるが、端的に表現するならば、その青年は男前だった。 「ここじゃまずいな」  小さくつぶやいた青年は真剣な表情で行くべき先をじっと見据え、絢斗の耳もとで「少し歩ける?」とささやいた。まだ肩で息をしていた絢斗がうなずくと、彼は「こっち」と絢斗を支えるように肩を抱いて歩き出した。
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