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 太陽が西に傾き始め、少し風が出てきた。  池袋駅東口から一番近い、南池袋公園。芝生広場のベンチを一つ陣取り、志はギターケースを開けた。  黒いボディのアコースティックギターだった。志はそれを(もも)の上に載せてかまえ、張られた弦のつながっているつまみみたいなものを触り始めた。 「絢斗は、音楽をやるの?」  弦を軽く弾きながら、志はなにげなく問いかけてくる。  絢斗は首を横に振った。歌うことはもとより、楽器の演奏もできない。  けれど、音楽は好きだった。一日に一度はスマートフォンから音楽を流し、サブスクや動画サイトで人気の楽曲、流行りの曲を聴くという、今どきの若者らしい音楽の楽しみ方をしている。  絢斗からも()きたいことがあって、青いノートに書いて志に見せた。 〈志さんは、バンドマンですか?〉 「違うよ。俺はただの音大生」  音大生!  意表を突かれた。一方で、なるほど歌がうまいのも納得だった。作曲もできるし、彼は音楽の神様に見初(みそ)められた男なのだ。  ジャカジャカと和音を響かせ始めた志が、また別の質問を絢斗に投げた。 「どんな音楽が好き? ロック? ポップス? ジャズ?」  絢斗は筆談で応じた。 〈ジャンルはよくわかりません。好きな歌手は、星野(ほしの)(げん)さんとか、(はた)基博(もとひろ)さんとか、BUMP OF CHICKENさんとか、Official髭男(ひげだん)dismさんとか〉 「いっぱいいるな」  志が笑って、絢斗はようやく好みをさらけ出しすぎていることに気がついた。恥ずかしくなって、頬が赤らむ。 「男性ボーカルが好きなんだ」  絢斗はうなずき、ペンを走らせる。 〈理由はよくわかりませんが、気づいたら男性の方の歌ばかり聴いていて。皆さんいい声なので、耳が喜びます〉 「耳が喜ぶって」  志はまた声を立てて笑った。彼が楽しそうにしていると、なぜか絢斗も楽しい気持ちになってくる。
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