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絢斗は目をまんまるにして驚いた。
なんらかの形で志が音楽に携わっていることは最初からわかっていたけれど、音大にかよっているだけでなく、いわゆる音楽系YouTuberとしても活動していたとは。
志は絢斗から赤いノートを借りて隣のベンチへと移動し、先ほど即興で作った歌に伴奏をつける作業を開始した。絢斗は大きくした目をぱちくりさせたまま、志のスマートフォンを改めて見た。
動画はどれもギター一本による弾き語りで、サムネイル画像はすべてギターを演奏する手もととマイクのみが映し出され、首から上は画面からはずれていた。
カバーされている楽曲は多岐に渡り、back numberの『高嶺の花子さん』、あいみょんの『マリーゴールド』など近年の流行曲から、桑田佳祐『白い恋人達』、スキマスイッチ『奏』、THE ALFEE『星空のディスタンス』など往年の名曲まで幅広く歌われている。
最新の動画はBTSの『Butter』をカバーしたものだった。ミュージックビデオを見たことがあるけれど、男の絢斗でも惚れ惚れする、はちゃめちゃにかっこいいダンスナンバーだ。
いつも持ち歩いているイヤホンを接続させてもらい、『Butter』のカバー歌唱動画をタップして再生した。
始まった直後から最後の一瞬まで、なにもかもがよかった。透明感と力強さを兼ね備え、ときに色気さえ感じさせる歌声。リズミカルでオシャレなアレンジを効かせたギター演奏。英語の発音まで完璧で、正確なピッチ、そして歌い上げる時に響かせるビブラートが心を掴んで離さない。
痺れた。一曲まるごと聴き終えた時、絢斗は放心状態だった。
動画の再生回数が、彼の実力を物語っていた。百万回再生を超える動画が何本もある。
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