4.

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 あぁ、もう――。  絢斗はくしゃくしゃの顔をうつむける。  嬉しかった。誰かに好きだと言ってもらえたのはこれがはじめてのことだった。  胸が高鳴り、張り裂けそうになる。  なんだ、これ。この気持ち。心の奥がくすぐったい――。 「笑ってよ、絢斗」  志の声に、絢斗はそっと顔を上げた。 「笑って」  志が先に笑ってくれる。その美しい笑みを映すように、絢斗も笑った。  そうだ。こうやって笑っていればいい。  笑顔が好きだと言ってもらえたのだ。だったら、笑っていよう。  意識すると、ぎこちない笑顔になってしまう。それが自分でもおかしくて、気づけば自然と笑えていた。 「それそれ」  志も嬉しそうに微笑み返してくれた。 「かわいいんだよ、笑った絢斗。はじめて会った時からずっと思ってたんだ」  わしゃわしゃと頭をなでられる。途端に恥ずかしくなって、絢斗はじゃれ合うように志の手を振り払った。  もう一度歌い直すと言って、志は準備にとりかかった。カメラの前に絢斗を立たせ、再び録画ボタンを押す役目をまかせる。  マイクの前でギターをかまえる志。それだけでもう雰囲気があって、彼の作り出す空気感、世界観に引き込まれる。  志と目が合う。彼がうなずいたら録画ボタンを押す約束になっているが、志はうなずくどころか「ちょっと待った」と言い、絢斗のもとへと歩み寄ってきた。  絢斗がなにごとかと一歩退(しりぞ)いた瞬間、志に唇を奪われていた。今日二度目の、キス。 「さんきゅ」  唇を離した志が、ささやくように言って笑った。 「パワーチャージ完了。さっきより絶対うまく歌える」  突然のできごとに驚き固まる絢斗の頭にポンと手を載せ、志は上機嫌でマイクの前に戻っていった。  唇が痺れている。からだもどこかふわふわしていて、足に力が入らない。  なにがなんだかわからないまま、絢斗は志の合図を受けてカメラの録画ボタンを押した。  志による二度目の歌唱は、一度目よりも本当によくなっていた。
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