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 志といれば、なんでもできる気がした。一人では叶わなかった願いが、志とならきっと叶えられる。  人目も(はばか)らず、二人はもう一度短いキスを交わした。額を寄せ合って笑い合い、次の楽曲制作に向けた打ち合わせを再開する。  幸せだった。  このままずっと志と一緒にいられたら、いったいどれほどの幸福を手にすることができるだろう。  これまで無数に取りこぼしてきた人生を、ようやく取り戻す時がきたのかもしれない。絢斗だって陽の当たる道を歩いてもいいのだと、志が教えてくれた気がした。  屈託なく笑う志の横顔につられ、絢斗の顔にも笑みが浮かぶ。  今この瞬間を切り取った詩が書けたら、きっと素敵な歌になる。志が歌ってくれたら、もっと。  にぎわいを増す(ひる)日中(ひなか)のカフェで、二人は終始笑顔のまま打ち合わせを続けた。  店を出た頃にはすっかり陽が傾いていて、鮮やかな茜色の空が、肩を寄せ合って歩く二人を優しく見守っていた。
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