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 青年は目をまんまるにして絢斗を見た。初対面なのだから仕方がない。絢斗のことを知らない人は、みんな同じ反応をする。  絢斗は口を閉ざしたまま缶を受け取り、ミルクティーに口をつけた。ふわりと広がるミルクの甘味と、優しく鼻を抜ける紅茶の香りが心をほんわかとあたためてくれた。おいしいミルクティーだった。 「あのさ」  緊張のほぐれた絢斗とは対照的に、青年はわかりやすく動揺していた。自分の右耳に右の人差し指を突きつけ、おそるおそるといった風に絢斗に尋ねる。 「耳、聞こえないの?」  よくされる勘違いだった。絢斗は首を横に振り、右の指で右耳を差してから、人差し指と親指の先をくっつけて丸を作るオーケーサインをしてみせた。 「耳は、聞こえる?」  彼が言葉にしてくれる。正解です、と絢斗はもう一度オーケーサインを出した。 「じゃあ、どうして」  どうしてきみは、手話を使うの?  そう問いたかったらしい彼のために、絢斗は黒いトートバッグにつけている、水色でやや大きめの缶バッジを見せた。 〈声が出せません〉  絢斗のために、母が作ってくれたものだ。文言を見て、彼はいっそう驚いた顔をした。 「しゃべれないの?」  絢斗はうなずく。 「だから、手話?」  もう一度うなずく。彼は「そっか」とつぶやいた。 「それは、その……病気で?」  病気。そうだと言えばそうだし、違うと言えば違う。少なくともからだは元気で健康なので、絢斗は首を横に振った。彼はもう一度「そっか」と言った。 「だったら俺、声かけて正解だったんだな。しゃべれないんじゃ、自分から助けを求めることも難しいだろ」  つらかったな、と彼は幼子(おさなご)をあやすように、絢斗の頭にそっと手を載せてくれた。  ドキッとした。指の長い、けれど節はしっかりと目立つ男らしい手が、優しく頭をなでてくれる。こんなことをしてもらうのは何年ぶりだろう。家族でも、大学生になった息子にはもう誰もやってくれない。
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