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ノートとペンをバッグにしまい、ミルクティーの缶を持って立ち上がった。隣の彼もギターを背負って腰を上げた。
彼のほうが、視線が十センチほど高かった。一八〇センチ近くあるようだ。顔もきれいで、スタイルもいい。平凡に平凡を塗り重ねたような絢斗とはまるで正反対だった。
彼に対し丁寧に頭を下げようとしたけれど、絢斗が動き出すよりも先に、彼が「あのさ」と口を開いた。
「どうしても行きたいなら、俺、付き合うよ」
なんだって?
唐突な申し出に、絢斗は驚いて目を大きくした。
心臓が妙な音を立てて鳴る。発作の時とは少し違う鼓動のリズム。これまで感じたことのない、新しい刺激。
「だってさ」と彼は言った。
「心配じゃん。水族館でもさっきみたいな発作が起きたら、今度は誰も助けてくれないかもしれないぞ?」
わかっている。リスクは覚悟の上でなお、一人で行くつもりだった。
だけどもし、彼が一緒に来てくれるのなら、それ以上に心強いことはきっとない。申し訳なさを感じつつ、ありがたい声をかけてもらえたと思う気持ちも強かった。
彼はグレージュの頭をかきながら言葉を選び、もう一度絢斗に提案した。
「ごめんな、突然。俺、困ってる人を放っておけないタチなんだ。きみみたいな……その、か弱そうな子は、特に」
か弱そうな子。彼は絢斗を小学生の女の子かなにかだと思っているらしいが、表情はどこまでも真剣だった。
「邪魔しないように、後ろをついてく。俺なんていないと思ってくれてかまわないから。満足できるまで、とことん魚を見て回ってよ。苦しくなったら振り返って。俺、いるから」
嬉しかった。彼の優しさには押しつけがましいところがない。
でも、本当にいいのだろうか。絢斗は彼の背後に視線を向ける。
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