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「ゆっくり、いくからな」
「は、ぁ……!?」
絢斗の返事を待たず、志は静かに挿入した。
雷が落ちたような電撃が走り、絢斗は叫んだ。入り口に裂けるような痛みが突き抜け、瞳が潤む。下腹部の鈍痛が吐き気を誘う。
「悪いな……もうちょっとだけ、我慢して」
「あぁっ、ぃぁあ……!」
「絢斗……!」
志の動きが止まる。そんな半端なところでやめないでほしい。
絢斗は志の背中にしがみついた。爪を立てるように指に力を入れ、志のからだを抱き寄せる。
「お、お、お願い……止まら、ないで」
「絢斗」
「い、いい痛い……早く……奥まで……っ」
自分でもなにを言っているのかわからない。わかるのは、下腹部の鈍痛がどんどんひどくなっていることと、中途半端なこの状況が不快でたまらなくて、今にも意識が飛びそうだということだけだ。
「OK……!」
志はゆっくりと挿入を再開した。少し進むたびに裂けるような痛みが走り、絢斗の声が部屋じゅうに響いた。
志の動きが止まる。付け根まできちんと入り、先ほど指でこすってもらったところにペニスの先が当たっていた。
絢斗の荒い息づかいの中に、ホッとしたような安心感を孕む吐息が混ざる。拓かれたところを埋めてもらえたことで、下腹部の鈍痛がつらさから快感へと変わりつつあった。
「絢斗」
下半身がつながったまま、志は絢斗を抱きしめた。
「ありがとう、こんな俺を受け止めてくれて。愛してるよ。誰よりも」
「志、さん」
そっと目を開け、絢斗も言った。
「大好き」
「うん」
「ずっと、一緒がいい」
「当たり前だ」
口づけを交わし、志は両腕を突っ張って上体を持ち上げた。
額から玉の汗が滴り落ちる。言葉もなく、志の腰が動き始めた。
内壁と入り口がこすれ、ビリビリと電撃が走る。突かれるたびに腹に響く鈍痛は痛みというより単純な刺激で、甘く、全身が心地よい火照りに満ちていく。
二人して呼吸を弾ませる。絢斗のものから白い蜜が滴った。
「我慢すんな」
志の動きが激しさを増す。
「いけ」
耳もとでささやかれ、志に耳朶を一舐めされた。
感情が高ぶり、声が出る。下腹部に走る規則的な刺激がどんどん大きくなって、からだが壊れてしまいそうだ。
だけど、気持ちいい。痛みはもはや快感だった。壊れてもいいから、ずっとこのままでいたいと願ってしまう。
ガンッ、と強く突かれる。嬌声とともに、絢斗の背中が仰け反った。
全身がゾクゾクして止まらない。志に「絢斗」と色っぽく呼ばれた瞬間、限界を突破し、達した。
「いい顔だ」
玉の汗を顎に滴らせる志が、赤らんだ頬をして口角を上げた。
「めちゃくちゃ……かわいい……エロいよ、絢斗……っ」
朦朧とする意識の中で、志が「かわいい」と言ってくれた。志だってとろとろにとろけたなまめかしい顔になっていて、男らしさ、かわいらしさ、色気、なにもかもがダダ洩れだった。
志の呼吸が弾む。はっ、はっ、と漏れる息さえ艶っぽく、胸の奥をくすぐられる。
くっ、と志が歯を食いしばった。腰の動きがまた一段と激しくなり、絢斗の嬌声が室内に響き渡る。
最高に気持ちいい。けれど、あと数秒も意識が持つ気がしなかった。
目を開けていられない。だらりと放り出した四肢に力は入らず、絢斗はただひたすらに志に身をまかせるだけになった。
「絢斗……ッ」
絞り出した声と同時に、志の動きがぴたりと止まった。
窄まりに収まった志のものが、しゅるると小さくしぼんでいく。絢斗の中に、あたたかな志の想いがたっぷりと流れ込んだ。
「ありがとう。愛してるよ、絢斗」
志は絢斗の上半身を抱きしめ、愛でるように唇を重ねた。今までしたどのキスよりも、この口づけは甘かった。
「やばい」
絢斗の意識が途切れる寸前、志は思い出したように勢いよくからだを起こした。
「きた」
サッと服を着ると、まっすぐピアノへと向かう志。ウェットティッシュで拭いた両手で鍵盤をたたき、ずっと悩んでいた新曲のワンフレーズを弾いた。
「これだ。これでいこう」
ようやく答えが出たようだった。絢斗と交わったおかげでアイディアがまとまったらしい。
本望だ。志さんの役に立てた――。
これ以上ない幸せをかみしめ、絢斗は静かに目を閉じた。
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