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「信じます」  志の目を見て絢斗は言った。 「志さんの音楽が、世界じゅうの人に届くことを」 「ありがとう。いい結果報告ができるようにがんばるよ」 「志さんなら大丈夫です。なんと言ったって、あなたは音楽の神様に見初められた男ですから」 「なんだよそれ」  志が声を立てて笑う。絢斗も笑うと、志がわしゃわしゃと派手に頭をなでてくれた。 「留守番、頼むな。ギターの練習、ちゃんと毎日やれよ」 「はい。がんばります」  最大で丸八日間日本を離れる志の代わりに、絢斗が志の借りている江古田の部屋を管理することになっていた。四月に迎えた二十歳の誕生日に志がギターを買ってくれたので、成人したことを機に、絢斗も本格的に音楽を始めることになったのだった。 「それじゃ」  志が軽く右手を上げる。しばしの別れの時が迫る。  たった一週間、されど一週間。いつだってそばにいたい大切な人が海を(へだ)てた先へ行ってしまうと思うと、胸がきゅっと締めつけられる。  寂しさが顔に出てしまったようで、志は困ったように笑い、絢斗にそっと顔を近づけた。  顎に右手を添えられる。絢斗は反射的に目を閉じた。  けれど志は期待したことをしてくれなくて、近づけた口をスッと絢斗の左耳に寄せた。
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