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薔薇の貴公子と遭遇しました
ディアレス家訪問から約4ヶ月程経った。その間俺とレイフロは会う事は無かったが近況を尋ねる手紙が2回くらい届き返事を返すってだけのやり取りをした。
レイフロの方は白魔法に関する本を探して見つからないとかのちょっとした愚痴が綴ってあったりなかったり。
俺はハーリィと魔力操作の練習を約束通り月2回行ってる。今は魔力がどんな感じかは感じ取ることが出来る。
それよりも今は重大な場面に至っている。これをどう処理するかが今の難問…--
「兄さん、お父様とお母様が準備できたか?って………まだなんだね。」
「ウッ……お兄ちゃんはお腹痛いから家に居るって言っておいて……。」
「駄目だよ。家族全員に正式な招待だから断れないって聞いたでしょ?」
くっ…兄よりもしっかり者に育ちおって…可愛い奴!
「いや……でも……。」
「それに、向こうは公爵家。あちらの方が貴族序列は上ですし失礼になってしまいます。」
「体調不良なら仕方ないってなるよ!」
「“本当”の体調不良なら!です。」
…と言う事で嫌々期を見せても問答無用で着替えさせられ部屋から出された。馬車に乗った俺達は招待された邸へ向かう。俺だけ憂鬱な顔をしながら。
「あの、お父様とお母様のご学友なんですよね、メルバーグ公爵御夫妻と。」
「ああ、そうだ。帝都学院の時に魔法専攻が一緒だったんだ。」
ウキウキで話を聞いてるリヒトだが、これからの地獄を見れば俺がどうして嫌がっていたかよく分かる。
メルバーグ公爵家は貴族序列3位の名家。そして、ゲームの攻略対象の家である。『ラベン・メルバーグ』。まだ本人とは会った事ないけどまだ会わずに済むならそれに越した事はない。
…だが、俺が行きたくない理由はそれじゃない。
ーメルバーグ公爵邸ー
「ようこそ、ヴァレンタイン家の皆様。」
「お招きありがとう。元気にしてたか?ファルマン。」
「当たり前だロナス。」
「セリーもお元気そうで良かったです。」
「ナトラも変わらずのようね。安心したわ。」
ロナスとセリーが俺の両親の名前で、ファルマンとナトラがメルバーグ夫妻の名だ。……それにしても、相変わらずお互いの距離が近いな…それぞれ両家の夫同士と妻同士の……。
「……とても仲良いんですね。」
「………うん…異様にね…。」
リヒトは顔には出さないが若干引いているようだ。まあ距離が近くなるとかそうなっても仕方ない。
「おや、ロナス。君の美しい瞳が少し疲れているように見えるよ。」
「はは、君にはいつでもお見通しだな。隠せてるつもりだったのに。」
「当然だ。俺は君の事なら何でも分かるさ。」
「あらあなた。まるでセリーが何も気付いてないように言いますね。セリーは気付いてても敢えて言わない深い心をお持ちなんです。」
「ふふ、ナトラに言われてしまったわね〜恥ずかしいわ。」
「当たり前です!何年貴女の隣に居ると思ってるんですか。貴女の心で考えてる事はファルマンより鮮明に分かります。」
「………兄さん、これは…。」
「その考えで合ってるよ。」
もう見ての通り、ファルマンは父さんの事が、ナトラは母さんの事が昔から好きなのである。でも家柄間での婚約の為メルバーグ夫妻は苦渋の決断で結婚した。…が、結婚しても尚メルバーグ夫妻の俺の両親への愛は止まることは無かったらしい。
「あぁ、ルイス!すまないね、置いてけぼりにしてしまって。」
「いえ!お気になさらないで下さい!」
「ロナスに似た瞳が更に美しくなったな。すくすく育って嬉しいぞ。」
「あはは……。」
「本当ですね。セリーに似た容姿も輝きを増して…将来が楽しみですね。」
「あ…お褒め頂きありがとうございます…。」
…そしてこれだ。会う度異常に愛でてくる。本当にほんとーーーーーに勘弁して欲しい。
俺が苦笑いしてるとリヒトが袖を少し強く引っ張ってきた。
「リヒト?」
「君が、ロナスが養子にとったリヒト君か。」
「…リヒト・ヴァレンタインです。初めまして。」
「随分可愛らしい子じゃないか。ようこそ、歓迎するよ。」
ニッコリ微笑むと最後に俺の頭を撫でてファルマンは父達と一緒に大間に移動した。俺達は使用人の人に家庭園に案内されそこでお茶を出してもらった。どうせ俺達が居ても分からない話ばかりだろうから。
「…….兄さん、あの人達はいつもああなんですか?」
…ん?少し怒ってる?あのリヒトが?
「そうだよ。しかも父様達は気付いてないからどうしようもないし…俺が来たくないって言った意味分かった?」
「…うん、ごめんなさい。」
「まあ俺も言い出せなかったし…あれを…。大丈夫だよ、今はリヒトが居るから寂しくないし平気。」
「兄さん……次は僕がどうにかするね。」
「ははっ、ありがとう。」
本当良い子に育ってくれて嬉しいよ。どうにかは難しいだろうけど兄思いな面を見れて凄い嬉しい。
「ルイス様、失礼します。メルバーグ家次男の御息令、ラベン・メルバーグ様が一緒にお茶をされたいとの事ですが…。」
え、大体家に居ないのに今日に限って何で…。ただ序列が下の俺が断るのも失礼に値するから許可を出すしかないのだけど。
「…来て頂いて大丈夫。」
「畏まりました。」
そして数分後、使用人の案内により攻略対象の1人であるラベン・メルバーグが華々しく登場した。薔薇と同じような赤い色の長髪を自分の手で靡かせている様に、無駄にキラキラして見える。そして何故か薔薇の花弁が舞っている幻覚が見えなくもない。
「突然すまない。普段表に出てこないヴァレンタイン家の秘蔵っ子が来てるという話を聞いて是非会ってみたくてね!」
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