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皇子の誕生日パーティーがあります
あれから冬が過ぎ春が来た。
俺は少しずつ魔力コントロールを覚え、使い方を特訓していた。神殿にある、白魔法の書物をハーリィの特権で片っ端から読み漁り暗記した。ルイスは脇役だが侯爵家の長男ってだけあって地頭がとても良いようだ。前世でかなり苦労してた暗記がルイスになってスルスル頭に入るから暗記までそう時間はかからなかった。
レイフロの方は神殿にあった書物に書かれてる事以外の白魔法に関しては特に新しい情報は見つかってないという報告を受けている。
現在把握してる事は、白魔法はとても貴重でどんな万物、人、獣、精霊や神獣まで癒す事ができ、又浄化の作用もあるとの事。
そして白魔法は血統により受け継がれるらしく、どうやら俺のご先祖様のどなたかが白魔法を使えてた可能性が高い話も出てきた。
しかし、ヴァレンタイン家の歴史をどれだけ遡っても該当する人物は居なかった。
そして神殿の書物には、かつて白魔法の対となる黒魔法を使う者が暴走した時白魔法によりその暴走は止められた記録があった。だから、もしかしたらレイフロの魔力過剰症による破壊衝動を和らげる事が出来るかもしれない…という所まで話が進んでいる。
…が、お察しの通り手紙のやり取りがあるだけで家にお邪魔してから1回も会っていない。
まあ別に、話さなくたって俺には前世の記憶というもので主人公にアドバイス出来るから今更情報を聞き出そうだなんて良いんだけどさ。
なんか、あんな話しておいてこんな野放しにされる事あるんだという気の抜ける状態も如何なものかと考えるようになった。
考えたところで特訓あるのみなんですが。
そして、もう一つ疑問に思ってる事がある。それは、主人公の事。確か主人公とリヒトは幼馴染みっていう設定で子供の頃に出会い仲良くなってリヒトが恋心を抱くようになるのだけれど…今のところ主人公が登場する気配が全く無い。
主人公-『エレン・モリウス』は子爵家の一人息子で、確か孤児だったリヒトが侯爵家に馴染めず同い年の子供で親しみやすい子を友達にとヴァレンタイン侯爵夫人…つまり俺のお母様がモリウス子爵夫人に頼んで2人は出会うって設定だったと思うけどーー…
そこでふと、窓の外に映る剣術の授業を受けているリヒトの姿を見付ける。そこには侯爵家に馴染めない様子など微塵も無く、剣術の先生や使用人とも仲良さそうに会話してるリヒトが居た。
…もしや、我が弟が内向的という設定の枠から大幅に外れて外交的な社交性もあり良い子に成長して見せたからお母様もモリウス子爵夫人に頼む必要も無いし、2人はまだ出会ってないなんて事が……………有り得るのか?
いや、俺の弟は素晴らしい。うん、とても良い子で可愛い。………と、俺が可愛がりすぎたせいでもあるのか!?そうだ…俺はゲームではただの脇役アドバイザー。しかし今の俺はリヒトが可愛いが為に脇の役に徹しれて無いのでは…!?
こうなれば二人の幼馴染み設定はどうなっていくんだ…!?どうにかしてモリウス家との繋がりを持つにはどうしたら……
「ルイス御坊ちゃま。当主様がお呼びです」
「お父様が?」
何だろう。この時期なんかあったっけ?
そして父の書斎に向かうと、やれ面倒だという顔をしてなにやら一つの手紙を雑に持っている父の姿が。俺の後からリヒトもやって来た。
お父様は俺達に持っていた手紙を渡して見せてくれた。それは何と皇室からの招待状で、第一皇子の誕生日パーティーを開催するから来るようにとの旨が書かれていた。
「お父様…これは僕達も参加って事ですか?」
「家に招待が来ているからそうだ。お前達をあんな薄汚れた場所に連れて行きたく無いが皇命だ。まあいつかはお会いするだろうから遅かれ早かれといった所ではあるが……」
お父様がこうまでして俺達を行かせたくないのはきっと皇族の権力争いに巻き込ませたく無いのだろう。第一皇子の母親、現皇后はとても聡明なお方で綺麗な方で、その息子の第一皇子も同じく聡明で才色兼備、魔法も既にかなりの腕前だとか。
しかし第二皇子の母親は皇帝の愛人だったが第二皇子を身籠もり側室に上がったオルゴン伯爵の令嬢。見た目は美しいが、身勝手で野心が高く傲慢。第二皇子もそっくりそのまま受け継いでいる。
皇族派は第一皇子を。貴族派は第二皇子を支持し、今からどちらを先に立太子させるか両派閥火花を散らしているのだ。
というのが理由で、既に激しい権力争いにまだ子供の俺達が巻き込まれないか不安で仕方ないんだろうお父様は。
ヴァレンタイン家は始まりから皇族派として功績も名も上げた由緒ある侯爵家。貴族序列四位だが、実際は発言力は二位くらいあるのだ。
そんな家の子供が先ず権力争いに無関係でいる事などまず不可能。
「もう少し先延ばしに出来ると思ったんだが、皇帝の忍耐の方が先に切れたようだ」
ずっと何かと言い訳をして俺達を皇宮に連れて行ってなかったのを、ついに皇帝に命じられてしまったと。
「…大丈夫ですよ、お父様。僕だって次は7歳になるんですから。マナーくらい任せて下さい」
「その辺は心配してないよ。ただ、私の可愛いお前達があの汚れた貴族達の目に映ってしまうと思うと、殺してやりたくなる」
ここにお母様が居なくて助かった。居たらもっと過激になっていたかもしれない。
「兄さんは僕がしっかり守るので、大丈夫です!ちゃんと見張ってます!」
「それはお兄ちゃんの僕の役目だぞ、リヒト。」
「頼んだよリヒト。」
「おっ、お父様!?」
「違うよルイス。君が最も危険なんだ。6歳で洗礼を受け魔力も測る。それがこの国の法律だからだ。」
….あ、そういうことか。
「きっと皇帝も、他の貴族もルイスの魔力の事など聞きたがってる筈だ。洗礼名は流石に無理に聞いてはこないだろうが、魔力に関しては別だ。」
「確かに…そうです」
「そこで、もし魔力について聞かれたら自分にはなんの力もない土魔法しか使えないとでも言う事としよう。」
「そんな嘘ついて大丈夫ですか?」
「問題無い。」
…そうですか。どこからそんなきっぱり言い切れる自信が出てくるのか、流石です我が父。
あ、待てよ…皇子の誕生日パーティーなら会えるのでは?
-数日後-
「坊っちゃま」
「あ、ランガード。」
読書をしていた俺の所にいつもの無表情のランガードが現れた。手には何枚かの紙が紐で包められている物を持っていた。
「頼まれていた物をお持ちしました」
「ああ、以外に早かったね」
「どうぞ」
父の書斎を訪ねた後、自室に戻ってランガードに頼み事をしたやつだ。それは今度行われる第一皇子の誕生日パーティーの出席名簿。普通公開されるものでは無いので調べるしか無いのだが、我が家の諜報員はとても優秀で直ぐに知りたい情報を集めてくれる天才ばかり。
「….…げぇ…まぁ分かってたけどメルバーグ家も来るよなあ」
ラベンにはとても会いたく無いけれど、あそこは序列三位の所だし招待されてないとおかしいもんな…。
けど俺のお目当ては……居た。
エレン・モリウス。ゲームの主人公。モリウス家もやはり招待されている。ここで彼を探してリヒトと会わせて、ついでに第一皇子と接触させる事も出来れば良し良しといった所!
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