皇子の誕生日パーティーがあります

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-誕生日パーティー当日-  俺にはまだ婚約者の話しも特に無い為お父様とお母様とリヒトで皇宮に向かう。  ライラと他の侍女達に徹底的にめかしこまれかなり疲労していたが、同じくめかしこまれたリヒトを見てその可愛さあまり疲れなんて吹っ飛んだ。 「兄さん、ちゃんと僕の側に居てね?」 「あはは、可愛い弟から離れるわけないだろう〜」  リヒトに抱きついて頬をウリウリとすると照れた顔をする。本当に可愛い俺の弟。待っていろ!これから主人公と対面させてやるんだから!  その後、お父様、お母様、リヒトと一緒に馬車に乗り皇宮へ向かった。  門番に招待状を見せ門を通る。白と黄金を基調とした城はとても広く皇家の象徴である虎が刻まれたシンボルが正面に設置されている。  馬車を降りホールへ向かうと使用人がホールの扉を開けてくれた。 「貴族序列四位、ヴァレンタイン侯爵家。ロナス・ヴァレンタイン様、セリー・ヴァレンタイン様、ルイス・ヴァレンタイン様、リヒト・ヴァレンタイン様のご入場です!」  使用人のその大きな一声だけで、ホールに居た人々の視線が一斉にこちらへ向けられる。  羨望だったり、好気、観察、興味、劣等など様々な種類の感情が込められた視線。高位貴族なだけあって注目は避けられない。 「ヴァレンタイン家の秘蔵っ子についにお目にかかれるのね…」 「下の子は孤児院から養子にしたとか」 「相変わらず輝く容姿のヴァレンタイン夫妻だが、その子供も流石と言うべきか」  あちらこちらで俺達に関する話が交わされる。確かに、俺とリヒトが公の場に出てくるのはこれが初めてだから当然と言えば当然なんだけれど煩わしいな。  俺がうんざり、という顔をすればお父様はそれに気付いたようでクスリと笑った。 「まあ、まずは陛下と第一皇子にご挨拶だ。」 「はぁい…」  皇帝陛下と皇后、そして今日の主人公である第一皇子はこのパーティーホールの2階に皇族達の座る王座と壇上があり俺達は2階へ登る階段に向かうレッドカーペットの上を歩いていた。  2階へ着くと騎士に案内され皇族達の前へ膝を付き頭を下げる。すると低い嬉しそうな声が頭の上から聞こえてきた。 「おお、ヴァレンタイン侯爵。我が息子の誕生日パーティーによく来てくれた。頭を上げよ」  皇帝陛下の一言で俺達は頭を上げる。ゲームではちゃんと見る事ができなかった皇帝。王座に座る目の前の男をいざ目の当たりにすると、皇帝の名に相応しい威厳を感じさせる面差しをしていた。  歳を重ねてるせいか、ブロンドの髪が白髪に近づいててるがとても凛々しい顔立ちをしていて実年齢より若く見える。加えて顎髭が更に漢らしく見せている。  その隣に座っているのがクラリス皇后。第一皇子の母親。とても美しい女性だ。雰囲気から思慮深さを感じさせる理想の淑女と言えるだろう。 「この度は第一皇子のおめでたい生誕の日に我が一家お祝いに預かれ嬉しく思います。」 「堅苦しいのはよせ!我と貴殿の仲じゃないか!」 「今日はそういうわけにはいきませんよ。」  豪快に笑う皇帝陛下とニコリ微笑むお父様を見て目が点になる。  …ん?今日は?普段はどうなんだと気になる所だが、ある人物の登場で俺はその人に釘付けになった。 「第一皇子、お誕生日おめでとうございます。細やかですが、我々からプレゼントを用意致しましたので後程ご覧ください。」 「侯爵、ありがとう。そして、侯爵夫人、その令息達もわざわざありがとう!」  彼こそが第一皇子の『ルーファス・ロアダンテ』。攻略対象の1人にして攻めランキング1位の男!  煌びやかなブロンドの髪に、絵本から出てきたような甘いマスクをした美形な容姿、そして温厚で爽やか!今日で確か10歳だっけ…俺とは3つ差で主人公とは4つ差かぁ…。 「…陛下、侯爵の息子達の顔を見れたので(わたくし)はお茶に戻ります。セリー。貴女もいらして。さっきメルバーグ夫人ともお茶をしていたの。」 「是非、皇后陛下。陛下、失礼致します。ではあなた、小鳥ちゃん達行ってくるわね。」  どうやら我が母は皇后と仲が良いらしい。序列が高い家柄だから自然と話す機会も多いんだろうが驚きだ。 「そういえば、侯爵の息子達を見るのは初めてだな!余がいくら会わせろと言っても頑なに首を縦に振らん頑固者が漸く連れてきたな」 「可愛くて仕方がないのでこればっかりは。さ、お前達も挨拶しなさい。」  お父様に促され一歩前に出てお父様の隣で俺とリヒトは会釈した。 「ルイス・ヴァレンタインです。皇帝陛下、第一皇子に拝謁出来たこと嬉しく思います。」 「リヒト・ヴァレンタインです。皇帝陛下、第一皇子に拝謁出来たこと嬉しく思います。」 「うむ。挨拶も完璧でしっかりした息子達じゃないか。特にルイスよ、お前は侯爵と夫人の血をしっかり受け継いでおるんだな。瞳は侯爵そっくりで驚いた!」 「お、お褒めに預かり光栄です…」  流石にこの迫力をファースト対面で慣れるには時間が…。笑顔が引き攣ってしまう。  隣をチラと見ると、リヒトは表情を変えず毅然としていて平気そうなのを見てこれは将来かなりいい男になると確信したのと同時に情けないと心の中で項垂れたのだった。  俺のその様子に気付いた第一皇子が軽く笑みをこぼす。 「父上、初対面でそんな一気に褒めると彼も困りますよ。すまないね、ルイス。父上は自分の厳つさがどれ程か分かっていないんだ。怖かっただろ?」 「ルーファス、父を揶揄うんじゃない」 「本当の事ですよ」  ゲームでは全く描かれなかった2人の親子のやり取り。何だか普通の親子みたいで温かくなる。 「ふふっ、もう大丈夫です」  そのやり取りが面白くて皇帝陛下の気迫の事などもう消え去り自然と笑みが溢れた。その時、皇帝と第一皇子の口がピタリと止まり俺に視線が集中した。 「…侯爵、貴殿が皇宮に中々連れてこない訳が分かった。すまなかったな。」 「そうでしょう。納得して頂けてありがとうございます。」  俺はよく分かってないんですが?リヒトはなんか少しむくれてる様子だし、第一皇子は観察するみたいに俺をじーっと見てるし。  何だ何だ。 「よし、ルイス!俺と踊りに行こう!」 「えっ!?僕ダンスはまだできなっ…お父様!」 「お待ち下さい、ルーファス皇子!我が息子は…!」 「大丈夫!直ぐ帰すよ!」 「兄さんっ」  父と弟に助けを求めたが、皇子の行動力は素晴らしく俺を抱き上げた後あっという間にパーティーホールの真ん中へ進み俺をゆっくり降ろすと両手を握った。 「あっ、あの!僕ダンスはまだ練習した事無くて、ダンスの作法も………っというか僕達男2人でどうやって踊るんですか!?」 「大丈夫大丈夫。今日は礼儀も作法も全部気にせず気ままに踊ろう。それに、別に今の時代男2人で踊るなんて普通の事さ。誰も気にしないよ」  あっ、そうだ。ここはBLゲームの世界。ならまあ、大丈夫か。皇子が良いって言ってるんだし。  止まってた音楽が再び演奏を開始する。不安だったがルーファスの言葉で安堵する。それに、 「僕が最初に踊るダンスの相手じゃないし大丈夫か…」  ボソっと言ったつもりがルーファスにちゃんと聞こえてたようで。 「ん?ルイスが最初のダンスの相手だよ?」  何食わぬ顔でサラッとそんな事を言ったルーファスに心臓が再びキュッと締め付けられる。 「えっ………と、婚約者様を除いてって事ですよね?」 「婚約者はまだ居ないから、正真正銘君が僕の誕生日パーティーで踊る最初の相手だね」 「えっ………と」  ーーー…………主人公!!どこだ主人公!今すぐ変われ!!!  急いで周りを見回しても見つかるはずもなく。俺は半ば魂が抜けた状態で皇子と独創的なダンスをしていた。勿論その時の記憶なんてものは無い。 ーその頃2階ではー 「ルーファスの奴、ルイスの事が気に入ったようだな」 「…………」 「…………」 「おいおい、親子してそんな怖い顔をするな」  皇帝も引くほどの不満そうな顔をしてるロナスとリヒト。2人の視線の先には明るい笑顔でルイスの手を引きよく分からないダンスをしてるこの国の皇子と悩みつつ上の空状態のルイスの2人。 「2人の子供なら美形なのだろうと思っていたが…しかし惜しい。  ルイスが女じゃなくて良かったな。女だったらルーファスの婚約者にしていた」 「残念ながら、あの子は下級の土の魔法しか使えないと神殿で測定した時に結果が出ました。」 「いや…女だったらって…言ってるだろうが…」 「陛下は性別など誤差と仰っていたのに?」 「かなり昔の話じゃないか…」  父であるロナスが皇帝にここまで冷たい態度をとっても何も言われない程許されている関係が不思議で堪らなかったリヒト。若干皇帝の方が疲れた顔をしてるのはまあさて置き… それに先程のルイスの笑みを見て皇子と皇帝が何かを思ったに違いないと悟ったリヒトは今すぐ兄の手を取って皇宮から出て行きたいーそんな思いを抱えていた。 「…リヒトと言ったか」 「はい、陛下」 「先程から我が息子を凝視してるようだがどうかしたか?」 (父や兄さんの時と打って変わって、微笑んでるけど高圧的な言葉。僕が孤児で養子になった話は知ってるはずだ。多分その意味は、自分の身分を考えろという事。…睨んでるのがバレたんだ) 「…申し訳ありません。兄が側に居なくて寂しくなってしまって。お許し下さい」 「兄弟仲が良いのは素晴らしい事だ。それなら仕方あるまい。侯爵は賢い息子2人に恵まれて幸せ者だな」 「この子も嫁がせる気はありませんからね」 「何も言っとらんわ。親バカもそこまで行くともはや病気だな……さ、もう行くが良い。下で侯爵に挨拶したい者も沢山いるだろう。」 「はい、では失礼いたします。」 「失礼します」 ーーー  曲が終わり一瞬ホールがシン…となる。やっと終わったと思い意識が帰ってくるとなんと手は繋がれたまま。どうしたのかと上を見上げるととても良い笑顔をしてる皇子の顔があった。 「もう一曲どう?」 「むっ無理です!こう見えてかなり体力使いました!休みたいです!それにあちらに皇子を待ってる令嬢達が居りますので行ってきてあげて下さい!では!」  これはまた流されそうだと思い逃げる様にその場を去った。というより走った。後ろで何か言いかけてる声が聞こえたがかなり距離を取ってた為うまく聞き取る事は出来なかった。  そんなこんなで無我夢中に走ってたら見事に迷子になってしまったとさ。  ここはどこだ…  客室用の部屋がある廊下でとぼとぼ歩いてると、1箇所扉の隙間が空いておりチラと中を覗くと誰かがソファに座って果物を食べてるのが見てた。  こうなっては背に腹はかえられない。思い切って頼もう!ホールへ連れてって欲しいと! 「あの…失礼します…」  恐る恐る扉を開けると中に居たのは少年で、こちらをかなり驚いた様子で見ていた。  それもそうだ。俺だって逆の立場ならそうなる。しかし、そこで俺は不思議な感覚に陥った。栗色の髪にアメジストの瞳。何処かで見た様な……。 「えっと、どうされたんですか?」 「申し訳ないんですが…今日初めて皇宮に来たので道に迷ってしまって…連れてって…ほしぃなと…」  恥ずかしくて少しずつ声が小さくなると、少年は目を丸くしてクスリと笑った。 「あ、でも食事が終わってからでも大丈夫です!」 「いえ、僕は人酔いしてここで休ませてもらってただけなので。もう良くなったから一緒にホールへ行きましょう」 「ありがとうございますっ!あ、僕はルイス・ヴァレンタインと申します」 「えっ、あのヴァレンタイン家の…!僕の方が先に名乗らないといけなかったのにすみません…。 僕は子爵家のエレン・モリウスです。」 「いや!全然礼儀とかだいじょ…………え?」  エレン・モリウス…だって…?  目の前の少年の両肩をガシッと掴んで上から下まで物凄い剣幕で観察する。勿論、エレンはかなり戸惑っているがそんな事を気にする暇はない。これは…!間違いない!  しゅ、主人公だーー!!!!!  待ちに待った主人公だーー!!!! 「あの…ヴァレンタイン様…」 「ルイスでいいです!いや、いいよ!僕達友達になろう!ね!」 「いや、でも家柄的に釣り合わ…」 「関係ないよ!僕はエレンと友達になりたい!ね!ね!」 「そこまで言ってくださるなら僕に断る事なんて出来ませんよ……よろしくお願いします」  があっっっっデム!!  恥ずかしそうに微笑むそれはまさに主人公のキラースマイル!! 「ああ、そうだ。後で弟に紹介していい?それで弟とも仲良くしてくれると嬉しいな。色々あって弟は友達がまだ居なくて、同年代くらいの友達を探してあげたくて…あ、勿論君が良ければだけど!」 「ルイス様は弟様の事を大事に思ってるんですね」 「弟は世界で1番可愛いからね!目に入れても痛くないとは弟の事だよー!」 「……羨ましい…」 「ん?何か言った?」  ボソと呟かれたその言葉は俺に聞こえる事は無かった。その後エレンに連れてもらって無事ホールに戻れた俺はお父様と弟から熱烈なハグを貰ったのだった。何でも皇室親衛隊を出動させる手前だったそうだ。  居なかったの10分くらいなのにヤバいよそれは…。 「エレンが居なかったら僕はずっと迷ったままでしたから、彼のお陰です。」 「君は…確かモリウス家の。ありがとう、息子を見つけてくれて」  どっちかというと俺がエレンを見つけたのが始まりなんだけど…まあいいか。 「兄さん、凄い心配した…良かった無事で」 「ごめんごめん。リヒト、手を繋ごっか」  するとリヒトは満足そうにして俺に体ごとピッタリくっ付けた。 「あ、そうだ。リヒト、こちらはエレン・モリウス君。リヒトも友達になれたら僕も嬉しいなって。」 「……リヒト・ヴァレンタインです…」 「エレン・モリウスです…えっと」    えっ。初めての攻略対象と主人公の出会いそんなけ?リヒトももっと反応無いのか!?エレンも! 「ねえリヒト、何か今こう…胸がドキドキしたりしてない?」 「何も。もやもやならしてる」  もやもや…?あ、まだ幼いからドキドキが分かりづらいのか!まあまあ、まだ出会ったばかりだもんね! 「そうだ!エレンは第一皇子に挨拶はもう終わってる?会った?話した?」 「え、うん。終わってるよ」 「何か感じなかった!?」 「特に何も……会話は特にしてないかな…」  何だって…?この段階ではまだ進展はしないのか…?いやでも雷で打たれた様な衝撃があっても良いはず…何故だ…!? 「あなた。」 「セリーおかえり。どうだったお茶会は」 「楽しかったわ。皇后陛下がもうお帰りになっても良いって許可してくれたわ。さ、帰りましょう」 「そうだな。ルイス、リヒト、もう帰ろうか」  えっ、もう!?まだ進展がっ…アドバイザーとしての役目が…! 「はいお父様。兄さん行こう」 「くっ…エレン!家に招待状送るから良かったら遊びに来てね!」 「あ、はい……お気を付けて」  …と、ルーファスと主人公のエレンに会えただけの収穫で終わってしまった。  いやでも、エレンとの接点が出来ただけ良いとしよう!これからだ!  アドバイザーとしての活動はこれから頑張ろう!  
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