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神殿に行くみたいです
◇◇◇
今自分の隣ですやすやと寝息を立てているのは自分の兄となった人物。いきなり弟となった俺を迷わず快く受け入れてくれた人。
貴族の家に養子になると聞いて、自分の中の貴族のイメージは自分勝手で平民を塵としか思ってない金取り共…だった。ヴァレンタイン夫妻に会うまでは。
ヴァレンタイン侯爵の特徴の1つである水銀の瞳に似た孤児を探してるってゆう話が各地の孤児院に触れ回り俺の所にやって来た。
夫妻で来た時は驚いた。身請けなどの話があった場合大体その家の家来が来るものなのに。
『私の息子の兄弟になってほしい。家族になってくれるかな?』
貴族なんだから命令すればいいのに、態々丁寧にそう聞いてくるなんて変わった貴族だ。
そしてやって来た侯爵家。出迎えてくれた兄となる人はとても綺麗な人で笑顔で俺に話しかけてくれた。
こうして俺が眠れないんじゃと一緒に寝てくれる。中庭で話した時も、自分の家を利用すればいいなんて……不思議とそれを言われて受け入れる事が出来た。
この家の人は皆親切だ。使用人の人達まで。
「う〜ん……リヒト…ケーキもあるよ…」
「…!」
手を握ったままそんな寝言を言ってしまう兄が可愛らしく思う。初対面だと言うのに、兄らしくあろうとする姿も。侯爵家となるからには、かなり厳しい中暮らしていると思っていたのに、こんなふわふわしてて優しい人が兄になってくれるなんて、全ての幸運を使い切った気持ちだな。
「おやすみなさい…兄さん。」
◇◇◇
目が覚めると、隣には可愛い寝顔でまだ寝ているリヒトの姿があった。
可愛い…とても。しかもちゃんと繋がれた手はそのまま。
「リヒト御坊ちゃま。失礼します。」
そう言ってメアリが入ってきた。そして俺の存在を確認して驚いた顔をしたがニッコリと微笑んだ。
「もうかなり仲が良いようで。リヒト御坊ちゃまもぐっすりですね。」
「かなり緊張もしていただろうし、疲れてたんだよきっと。リヒト起きて、朝だよ。」
「……ん、あ……にいさん…」
うっっ…!朝からそんな可愛い兄さんを聞けるなんて心臓がギュンッッと握られた感じだっ…。
「おはよう、リヒト。」
「おはようござ……あ、おはよう…兄さん。」
「…さ、ではリヒト御坊ちゃま。お着替えです。」
「えっ…」
メアリがリヒトを逃さないという剣幕で迫る。リヒトは俺の後ろに隠れるが、ここは心を鬼にしてリヒトをメアリに預けた。
若干涙目でこちらを見てきたが、いつまでもこれだと慣れるものも慣れないからなあ。
そして俺は自室に戻ってライラ達に身支度を手伝ってもらった。
強くなれよ、リヒト。
朝食の時にはかなりぐったりした様子のリヒト。その後ろではメアリが達成感に満ちた顔をしていた。あの様子だとまた攻防戦が繰り広げられたようだ。
食卓には父と母がもう先に座っており仲良く会話をしている。
リヒトと一緒に椅子に座る。父と母も流石にリヒトの様子は一体どうしたんだという顔をしていた。
「リヒトが誰かに着替えをしてもらうことに抵抗してメアリが頑張った後ですよ。数日したら慣れていくと思います。」
「成る程そうか。」
「…兄さんのいじわる…」
「ええっ、何で!?」
「ふふ。随分仲良くなったのね、良かったわ。」
「可愛い弟ですから!」
「あら、逞しいお兄ちゃんです事!」
隣のリヒトを見れば照れた顔をしている。早くその様を肖像画にでも残しておきたい。いや、明日にでも画家を呼んでこよう。そうしよう。
「ああ、そうだルイス。今日は神殿に行かなければならない。食事を済ませたら1時間後に出るからね。」
「あ、洗礼を受けに…ですか。」
「そう。6歳になったからな。」
神殿…かあ。確か神殿に一人攻略対象が居たな。幼き大神官様。最年少にして類稀な神聖力を持ち大神官の一人に名を連ねた人、シャンディ・アンフェローネ。アンフェローネは帝国神話の慈愛の女神の名前。赤子の時神殿の前に捨てられていたのを、教皇に拾われ育てられたという。
会えるか分かんないけど、遠目からチロっと見てみたいなぁ。かなり美形だったから。確か主人公が入学時点で15歳って設定だから2歳差で今6か7歳…か?
そして食事が終わり神殿用の服装に着替えて出発した。父と母はちょっとソワソワしてるように見える。まあ洗礼を受けた後に魔力測定もあるからそこが不安なんだろう。
ルイスは脇役だしそんな大層な魔力は無いはず。作中でもそんな展開なんて無かったし。…もしかしてルイス魔法が使えないなんて事はないよな……?
◇◇◇
目の前には我が帝国の神殿。しかもかなり大きい。神殿に来るのは2回目。1回目は俺が生まれた時に祝福を受けに行ったから全然覚えてないけど、何だか懐かしい気持ちがある。因みにリヒトはお留守番。
洗礼を受けに来た伝えたら、応接室に案内された。助官の人がお茶やらお菓子やらを用意してくれたらしく、色々置いてあった。
暫くすると神官のハーリィという方がやって来て色々説明をしてくれた。
「今からは御子息一人で来て頂きます。ヴァレンタイン夫妻はこちらでお待ち下さい。洗礼の儀式が終わりましたら次に魔力測定を行います。それが終わりましたらこちらに戻ってきますのでお願いします。」
「了解した。息子をよろしくお願いします。」
「ではルイス様。こちらへ着いてきて下さい。」
「は、はいっ。」
ちょっと怖いけど…男ルイス。行ってきます!
長い廊下をかなり歩いて1つの部屋に辿り着いた。中に案内されると、そこには太陽の光が差し込み、真ん中に円状のぱっと見で分かる程の綺麗な水池がありそれを囲うように草花が植えられている。
「まずここで身体を清めて頂きます。」
「…………エッ」
あの水の中に入るの?
「こちらの服にお着替えになってからあの中にお入り下さい。我々の祈りの言葉が終わりましたら出て頂きます。」
えっさほっさと進められ俺は水の中に入った。でも太陽の光があるからか寒くはなくとても心地よかった。神官様の祈りの言葉が5分程続き、それが終わればタオルを持って待機してくれていた少年が居た事に気付く。清めの水から上がると少年は笑顔で近寄ってくる。
「お疲れ様でした。このタオルをお使い下さい。そして全身拭けましたらこちらの衣装にお着替え下さい。」
ニコッと笑う少年にとても見覚えがあった。月みたいに輝く銀の髪に深緑の瞳。整った顔立ち。
「…あの、すみません。……お名前を聞いても?」
「シャンディと申しますヴァレンタイン様。」
なっっっっっっっ……んと…!!!!
やっぱりそうでしたか本当ですか子供時代のシャンディ拝めるなんて感謝感激でっっっす南無!
「いや、ルイスで大丈夫です…!」
「いえ…私はただの助官ですから。貴族の方の名前を呼ぶなんて烏滸がましいです。」
「貴族とか関係ないですよ。俺は友達が少ないから、年が近くて仲良くなれそうな人には友達になれたらなって意味で名前で呼んで欲しくて…」
いや、でもいきなり名前で呼んで…とか友達になって…とか危ない奴の発言じゃないか?
言ってから冷や汗が出てくる。
「やっ、ごめんなさい変な事言って!困らせるつもりは無くて…!早く着替えて行きますね!」
「あ…いえ、そんな事は…ゆっくりでいいですからね?」
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