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そうして着いた大公家。ヴァレンタイン侯爵家もかなり広い敷地だけど、やっぱり大公家なだけあってうち以上に広い。屋敷も、もう一個の城だもんな。
「ようこそいらっしゃいました、ルイス・ヴァレンタイン様。私、執事長のホウロと申します。レイフロ様の部屋へ案内しますね。」
「ありがとうございます。」
執事長のホウロと20人は居るであろう使用人達が出迎えてくれた。何だかこんなに大人数で迎えてくれると思ってなかったら若干引いた。この歓迎ムードに。今時は貴族の令息が、他貴族家に訪問するのはこれくらい大人数で出迎えないといけないのか…?
「…申し訳ありません、大袈裟に人数を呼んでしまって。」
「あっ、いえ…!そんな事は………」
思ってましたが…顔に出てたかな…?
「レイフロ様が誰かを招待するなど初めての事だったのでつい嬉しくなって…。年寄りがはしゃいでしまって恥ずかしいですな。」
「……素敵ですね。」
そう言えば…レイフロの母親はレイフロを生んで2ヶ月後に亡くなったんだっけ…。そこからは仕事で全く帰らなくなった父親に代わってこの執事長がレイフロを大事にしていた…だった気がする。そうか…この人が……後にあのラスボスを育て上げるのか…。
「レイフロ様。ルイス様がお見えになりました。」
ホウロが扉を開けてくれてランガードと部屋に入る。俺よりたった2歳しか違わない癖に、足組んでソファに座っている様がとてもキマっているのが少し腹立たしい。
「来てくれて感謝する。ようこそ我が家へ。早速で悪いがホウロ、そしてヴァレンタイン家の執事は部屋の外に出ていていくれ。」
「主人の側を離れる訳にはいきません。」
レイフロは余程周りに聞かれたく無い話を俺にしたいようだ。何故かは知らないけど。
「ランガード、大丈夫。部屋の外で待ってて。」
「……承知しました。」
そして2人きりになった部屋。重い空気が全身にのしかかる。
「お前の執事は暗殺者でもやってるのか?」
「え?」
「今にも俺を殺す勢いだったぞあれ。」
「エッ!?」
ちょっとランガード…!何してんの!
「…申し訳ありません…後できつく言っておきます。ちょっと…いや、大分過保護な所がありまして…。」
「忠実な部下じゃないか。」
「そっ、それはそうと、俺にどんなお話が…」
あれだけ2人を早く部屋から追い出したんだ。余程急ぎで話したい事なんだろう。
というか今思ったけどこれは本当に子供の会話なんだろうか…………。俺6歳になったばかり。レイフロは8歳。世間から見てもおかしいんじゃないかこの会話……。
「…我がディアレス家代々強い魔力を持って生まれてくる事は知ってるな?」
「え、…はい…」
そりゃ帝国一の魔法使いで、その中でもレイフロは剣術も長けた歴代最強と言われる人なんだから。そう…でもその強大な魔力のせいで……
「…“破壊衝動”」
「…!!」
そうだ…魔力が多い人だからこそずっと溜めてきた魔力が膨れ上がって暴走してしまったりする事がある……って聞いた。
それを長年感情を殺す事で抑えていたレイフロは主人公に恋をし、嫉妬で自分をコントロール出来なくなって暴走する。それがラスボスへの始まり。
「魔力を多く保持する者にのみ起こる、魔力過剰症を起こし破壊衝動に襲われる……実は俺はそれを一度起こしている。」
「えっ!!?」
「5歳の時だ。その時は山を3つほど跡形もなく消すまで止まらなかったそうだ。」
…山を3つ…!?しかも5歳で!?
「成長する毎に俺の魔力は強力に増えていく。魔力過剰症は治るものでも起こさせないようにするのも無理なもの。こうなったら自分の感情を代償にしても魔力封じでもしようかと思った……が。」
そこでレイフロはジッと俺を見てきた。ニコッと口角を上げて。
「なんと白の魔力を持った子供が現れたんだ。」
「………ェート……。」
「どんなものでも癒す魔力。その力があれば魔力過剰症を抑えれるんじゃないかと俺は思ってね。」
「ぇっ…と…そうとは限らないんじゃ…ないですかね…?」
ダメだ。いくらレイフロの頼みでも…ここで俺が変に関わったら主人公とのハピエンが…!ラスボスルート開拓の未来に支障をきたすかもしれない…!これは危ない流れだ!直ぐに撤退して…
「…不確かでも何でも良い。少しでも可能性があるのなら試してみたいんだ。…もうあんな思いは御免だ…。」
「……公子様…」
さっきまでの傲慢な態度とは裏腹に、何かに思い耽る顔をする。8歳でそんな顔をしてどうすると思うが、余程最初の破壊衝動にトラウマでもあるのだろう。ゲームには描かれてなかった裏設定を知れて、ファンとしては歓喜ものだがどこか切なさを感じた。
今ここはゲームの画面越しじゃなくて現実。キャラクターの感情が読み取れるようなメーターも選択肢のコマンドもない。
大きな悩みを抱えた一人の子供が居るというリアル。
魔力過剰症により起こる破壊衝動は理性を失い、その魔力が尽きるまで辺りを破壊し尽くす。
中には命を落としてしまう人もいるとの事。気付かぬうちに家族や大事な人を失ってるかもしれない恐怖。2度と経験したくない事であるのは間違いない。
「……ハーリィ神官に白属性の魔法について勉強させてもらう予定です。僕がちゃんと使えるようになるか分かりません……それでも良いんですか?」
「勿論だ。当然、俺だってその方法を一緒に探して行く。任せっきりにする訳じゃないから安心しろ。ただお前に手を握ってもらったあの時…少しだけ魔力の波が収まった。だからもし…と思ってな。」
そういう事だったんだ…じゃあ本当に魔力過剰症を抑える効果があるのかな…。
「…分かりました。僕にどこまでできるか分かりませんが、公子様の手助けをします。」
それに今から近くに居て、好みや趣味とか色々把握して主人公にリークするのもかなりアリだと考えた。そうすればアドバイスの幅も広がりそう…!
「助かる。その代わり、お前の事は俺がどんな事からも守ると約束する。気に食わない奴が居たら言え。直ぐ消してやる。」
…すっっごく遠慮します。
そんなこんなで、レイフロの頼みを受け入れのんびりお茶をしてディアレス家を後にした。
俺の脇役としての人生はどうなっていくのやら…。
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