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第2話 鎌倉
「ゴールデンウィーク、どうする?」
連休前の火曜日、夜中にナポリタンを啜る尊に何の期待もせず聞いてみる。
「え、家でゴロゴロしようと思ってたんだけど、駄目?」
予想どおりの反応だった。
口に含まれたパスタが飲み込まれるのを待つまでもなく想定できた答えだった。
確かに異動してからは、前任の積み残しがどうのと忙しそうだったし、ゆっくり家で過ごす時間も作ってあげたいけど──。
「5日間もだらだら過ごそうとしてる? ゴールデンウィークなのに?」
彼はフォークを動かしていた左手を止めて顔を上げた。
蛍光灯の光に照らされた白い肌が、その整った目鼻立ちを強調している。
「何かしたいことでもあんのかよ」
そう問われ、ふと地元の名物を思い出した。
「鎌倉の生しらす食べに行きません? 丁度4月5月が旬なんですよ」
「ああ、生しらす美味いよな〜。俺も好き」
あの味を思い浮かべたのか、表情が緩んでいる。
連休初日の水曜日は、鎌倉へ行くことに決まった。
尊と2人でデートなんて、以前出張で京都へ行って以来のことだ。
心地良い高揚感を覚えながら、ローテーブルに座る相手を真正面から見つめた。
美人で、仕事が出来て、真面目で優しい完璧な上司と付き合える俺はなんて幸せ者なんだろう。
「何だよ?」
熱く注がれる視線に戸惑うように俯き、パスタを口に含む姿が可愛い。
仕事モードの時とは異なり、プライベートの彼は奥手でとてもシャイだ。
目を合わせると、すぐにこうやって逸らされてしまう。
「今日、添い寝していい?」
揶揄い半分、甘え半分でその顔を覗き込むと、彼は呆れながら目を細めた。
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