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ドキドキと煩い心臓の音を聞きながら、女の人が私の方に顔を動かした。 それがやけにスローモーションに見えて映画のワンシーンのようで・・・。 そして、久しぶりに目が合った・・・。 久しぶりに目が合ったこの女の人は、やっぱり綺麗だった。 美人や可愛いの分類ではなくて、“綺麗”という表現がこの女の人には合う。 そんな綺麗な女の人が私を見て目を見開き驚いた顔をしている。 それには笑ってしまって、作った笑顔から自然な笑顔になってしまった。 「覚えてます・・・!! コーヒー牛乳の・・・!!!」 私のことを覚えてくれていたようで嬉しくなる。 「凄い久しぶりですよね? 今日はスーツ着てますけど・・・もしかして喫茶店は辞めたんですか?」 「はい・・・!! ご縁があって今年の4月から会社員になりました・・・!! もしかして、お店に来てくれていますか・・・?」 「いや、行けてないです・・・。 そもそもお店どこにあるのか知らなくて。 毎回デリバリーでしたし。」 「そうですよね・・・!!」 毎回デリバリーでコーヒー牛乳を届けてくれていた女の人が、少し慌てた様子で黒い鞄の中からシルバーの手帳を出した。 そしてシルバーの手帳の後ろの方から名刺を1枚取り出し、私に差し出してくれた。 「これ、喫茶店で働いていた時の私の名刺です・・・。 私の父がやっている喫茶店で、今はもう私は働いていませんが・・・。 この住所に喫茶店がありますのでもし良かったら・・・。」 「ありがとうございます!」 両手で名刺を受け取り見てみると、この女の人の名前は“本橋せいか”さん。 私が社会人2年目の冬まで定期的にコーヒー牛乳をデリバリーしていたのは、“喫茶 隠れ家”の“本橋せいか”さんだったと知った。 そこで私も名刺をせいかさんに差し出す。 「私はこういう者です。」 「・・・ちょうだいします。」 私の名刺を受け取ってくれたせいかさんは、名刺を見た後に嬉しそうに笑った。 「加賀製薬にお勤めなんですね・・・。 やっぱり、大きな会社の方で・・・。」 「それが、経理部の平社員だしお給料は高くないんですよね。 入社5年目にしてやっと一人暮らしを始めました!」
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