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「久しぶりですね、村田先輩。」 男さんが優しい笑顔で笑いながら村田隼人のことを“村田先輩”と呼ぶ。 大学時代、男さんは中岡部長と村田隼人の後輩だった。 「木葉か・・・。木葉、だな・・・。 そうか、キミも木葉だし・・・顔もどう見ても木葉で・・・。 何で気付かなかったんだろう・・・。」 「弟だからこそ出来る演技みたいですね。 俺にはここまで出来ませんよ。」 男さんが優しい笑顔でそう言って、資料を相川社長に両手で渡した。 相川社長がそれを不思議そうな顔で受け取り、男さんは難波さんにもその資料を渡した。 「6年前の加賀製薬からの脅迫の件です。 当時は、箕輪が相川薬品の誰かを脅迫しているというリークでした。」 「そうだね・・・。 難波にこの件を託して、誰が脅迫を受けていたのか調査を依頼しようとしていた。」 「それを、中断させましたよね。」 「そうだね、こちらが脅迫していた側ではないから。 加賀製薬さんが調査をするだろうからと思って止めたよ。」 「加賀製薬でも調査をしませんでした。 真実かどうかも分からない、粗末な証拠だけで箕輪を退職させて終わりにさせました。」 男さんがそう言って、困った顔で笑いながら村田隼人を見た。 「退職させるとまでは思ってませんでしたよね? 粗末な証拠でしたし、嫌がらせくらいの気持ちでしたか?」 男さんがそう言うと、村田隼人は大きな溜め息を吐いてから項垂れ・・・頷いた。 「そこから苦しみましたよね、村田先輩は箕輪のことも人として好きだったのは俺でも分かりましたし。」 「そうかもな・・・。」 「ならいっそ、本当に“悪”になることにしましたか。」 「そうかもな・・・。」 「箕輪が退職したのは、自分から退職すると申し出たからです。」 男さんの話に村田隼人が顔を上げた。 「調査をすれば村田先輩に辿り着いてしまうのは分かったので、箕輪は自分から退職を申し出て終わりにさせました。」 「なんで・・・そんなことを・・・。」 「退職しないで調査させればよかったよね、ごめんね?」 箕輪さんが美人な顔を少し歪ませて笑った。 「それで隼人まで辿り着いて、その時に何でそんなことをしてしまったのか言わせればよかった。」 「・・・それでも言わなかった。」 「そしたら、私から言った。 あの時がそのタイミングだったんだろうね。 ごめんね、隼人のタイミングを私が取っちゃった。」 箕輪さんがそう言って・・・ 美人な顔を歪ませながら、泣いた・・・。 「知ってると思うけど、あの人は鈍感だから何も気付いてないよ?」 「だろうな・・・。」 「今度こそ言いなよ。」 「結婚したからって余裕かよ。」 「余裕なんてないよ、昔から。 8歳も離れてるし、私は子どもで。」 箕輪さんが笑いながら小池さんを見た。 「早織に協力してもらって、あの人が私のことを本当に好きなのか聞き出してもらうくらい、私には余裕なんてないよ。」 .
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