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また弟さんに会えた嬉しさ、調査員と分かった時の悲しさ、それらを思い出して複雑な気持ちが蘇ってくる。
喫茶店にいた時の弟さんは、キラッキラな本物の顔をしていた。
それくらい、わたしを“愛している”顔をしていた。
そんな顔の弟さんと2人で、色々な話をした。
お客さんが少ない時は、わたしは弟さんと沢山話してしまっていた。
弟さんの隣に座ることも向かいに座ることもなかったけれど、店員としてだったけれど、わたしは弟さんと楽しくお喋りしてしまっていて・・・。
調査員じゃなければいいなと毎回願っていた。
緊張した様子で“俺と星見に行かない?”と聞かれる度、他の男の人達とは違うように感じてしまって。
もし、もし、調査員だとしても、その言葉だけは“本物”であって欲しいと願ってしまっていた。
でも・・・
「再会した弟さんは、涼しい顔で。
驚いた顔はしていたけど、何でもない顔で。
わたしへの気持ちは何もなかった顔をしていて。
弟さんは調査員だったし、何の気持ちもなかった演技だったんだって思っていました。
“偽物”の10年間だったと思っていました。」
わたしがそう言うと、弟さんは困った顔で笑った。
「星神、演技力あったのか。
俺が調査員だってことを分かってる素振りが全然なかったから気付かなかった。」
「あ、それは気付きませんでした!!
父からは誰が調査員かは知らされていなくて。」
「でも、“星見に行かない?”って誘われまくっただろ?」
弟さんに聞かれたのでそれには頷く。
「もしかして、“星見に行かない?”の人が調査員だったんですか?」
「・・・そうだな。」
「でも・・・“飲みに行かない?”とか“連絡先教えて?”とか“何時に終わるの?”とかの人たちも多かったので・・・。」
わたしがそう言うと弟さんがまた少し怖い顔をした。
そして・・・
「そういえば、“隠れ家”で働いてる時に誘いに乗ったことが1回あるんだよな?
そいつとはどうなってるんだよ?
付き合ってはないけどたまに会ってるとか言ってたよな?」
と・・・。
手土産で持ってきたお酒はまだ飲んでいないのに、弟さんがそんなことを聞いてきた。
「あの・・・聞いてませんか?」
「何を?」
「男さんから・・・。」
「“社長”から?何だよ・・・?」
それには驚き男さんを見ると、男さんは苦笑いをしていて・・・
「言ってないよ。
今年31になる“弟”の恋愛を手助けするようなことをしたとは流石に言えなくて。」
「そうでしたか・・・。
お二人は情報共有を大切にされているので、てっきりお話されているかと・・・。」
言葉を切ってから弟さんを見た。
「わたしが誘いに乗ったのは、男さんからの誘いです。
“小さな事務所だからアシスタントも出来るような事務員を探してるんだけど、どうかな?”と言われて。
弟さんとよく似た人にそう言われてしまって、その場で父に男さんの会社で働きたいと言って・・・男さんからの誘いに乗りました。」
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