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初めて入ったラブホテル・・・の、入口のところ。 そこには部屋の写真と部屋番号の一覧が表示されていて、いくつかは黒くなっている。 「光ってる所が空いてる部屋な!! どこがいい?」 弟さんがそんなことを聞いてきて、わたしは何も言えないままその表示を見ることしか出来ない。 初めて見るラブホテルの部屋の写真は、なんだかいやらしいように見えてしまって・・・わたしの心臓は悲しいくらいにドキドキとうるさい。 「気に入らねーか!! 他の所も見てみるか!!」 弟さんが少し大きめな声を出してそう言って、わたしの腰をしっかりと抱いてラブホテルを出た・・・。 それから、またラブホテルが建ち並ぶエリアをゆっくりと歩き・・・ たまに立ち止まったり、ラブホテルの中に入ってみたり、また歩いたり・・・。 そんなことを繰り返した。 そんなことを繰り返して・・・ 繰り返して・・・ 「これ以上はないな、23時。 どのラブホも部屋がほぼ埋まったし、今から入っても終電なくなるからな。」 弟さんがわたしの耳元で囁くように言ってから、ラブホテルが建ち並ぶエリアの出口に向かっていく・・・。 ゆっくりと歩き、ラブホテルが建ち並ぶエリアを抜け出しまた人混みの中へ。 金曜日の夜・・・スーツ姿の人達だけではなくて私服の人達、派手な服の人達。 若い人からも年配の人からもお酒の匂いがしているような気がする。 そんな人達を見ながら弟さんと密着しならしばらく歩き・・・ 駅が見えてきた時、弟さんの大きな手や身体がわたしから離れた・・・。 そして・・・ 「今日は残業ありがとな!! ちゃんと残業代出るから、申請しておけよ!!」 涼しい顔でそう言って、立ち止まった。 さっきまではわたしに恋をしてくれているような顔だったのに。 「また来週な、本橋!!」 さっきまで“せいか”と呼んでくれたのに、また“本橋”に戻ってしまった・・・。 演技だった・・・。 全部、演技だった・・・。 今日はアシスタントの人が誰も空いていなかったのだと思う。 そういう時、社長も弟さんもたまに箕輪さんに頼むことがある。 そして箕輪さんがダメな時は、わたしも・・・。 でも、ラブホテルは今回が初めてだった。 箕輪さんにたまに頼んでいるのは知っているし、箕輪さんからは他のアシスタントの女の人にも頼んでいると聞いている。 でも、わたしは今回が初めてで・・・。 男の人に初めて腰に手を回されたのも、密着をしたのも、ラブホテルの入口に入ったのも、仕事になってしまった・・・。 そして、大変なことに・・・ それが恋をしている相手にもなってしまった・・・。 「気を付けて帰れよ!!」 弟さんは笑いながらそう言って、わたしに大きな背中を向けた・・・。 その背中を見て思うことはいつも1つで・・・。 普通の見た目で、恋愛経験も何もなくて。 そんなわたしが恋をしてどうにかなる相手ではなかったということ。 だから、同じ空間にいるだけで満足。 たまに姿を見ることが出来て、たまに話し掛けてもらえて。 それだけで、満足。
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