ばったりJKよもやま話

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 未希(みき)は照れもせず、遠慮のない熱視線を注がれながら歩いていた。  今、人生最大のモテ期が訪れている。街を歩くことが躊躇われるぐらいにモテてモテて仕方がない。そのせいか、体内に熱を帯び、それが膨らんでいく様が感覚で分かる。  だから今日は外に出たくなかった。だのに母親から買い物を頼まれた。百円ショップでウェットティッシュを買ってきてという、急ぐのか急がないのか分からない用事だ。  先ほど市長が、SNSで注意喚起をしていた。 『今日は観測史上最高の41度を記録しています。今がピークなので、外出は控えるようにしてください。ピークが過ぎてもしばらく気温は下がりません。どうぞ涼しくしてお過ごしください。』  街を歩く人は少ない。しかし道行く人は誰も彼もが最大のモテ期だ。太陽という凄まじい存在に大モテなのである。たとえ千人の異性にモテようとも、さすがに太陽と戦える者はおるまい。炎のごとき熱視線に(さら)されて、照れはしないが怯んでいる。体感温度は41度どころではない。街が巨大な部屋となり、それが逃げ場のないサウナに変貌したような感覚だ。残念ながら、未希にはこのサウナを楽しむ余裕がない。  歩くことが(つら)くなり、目の前のコンビニに飛び込んだ。目的の百円ショップはあと十五分ほど歩かねばならない。母に嫌味を言われようとも、自腹でウェットティッシュを買って帰ろう。早く家の冷房にあたりたい。アイスバーでも食べながら、うれしくも何ともない太陽からのアプローチを忘れてしまいたい。  未希は目当てのものを取り、アイスコーナーを覗いた。冷気というほどの冷気は感じないが、幾分気持ちが涼しくなる。早く溶けてしまうミルク系はだめだ。できるだけ溶けにくいやつでなければ、服を汚してしまいかねない。となれば、選ぶものはこれだ。と、冷たい袋を手に取った。
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