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宇佐見先生による防災訓練レポート(前日編)
あまりにも居心地の良いこの部屋で、紅茶をいただく。
もちろん俺に用意してもらった303号室も居心地はいいんだけど、管理人のヒロさんの住居であるこの507号室は別格だ。
高い天井。南の窓からたっぷりと降り注ぐ光。シャボン玉の泡みたいなオシャレすぎる灯りの下のダイニングテーブル。
そこで紅茶をいただく。
だけど、ヒロさんと男同士でティータイムをすることだけが、今日の、本来の目的ではない。
「二階と三階の住人の点呼をすればいいんですね」
俺は防災訓練の手順を確認する。
非常ベルが鳴ったら、入居者は、階段で避難を開始する。
一階の駐車場スペースの車を移動しておいて、そこに避難する。
避難が完了したら居住階ごとに、部屋番号順に並んでもらう。
「宇佐見さんは高校の先生をされていると伺ったので、こういうことには慣れておいでかと思いまして。面倒なことをお願いしてしまって、すみません」
背後で物音がした。ソファに寝そべっていた少年が起き上がったらしい。
「あんた先生?」
「はい」
妙なくらい礼儀正しくなってしまうのは、この少年の態度が王様のようだからだ。
勝手に身体が防衛線を張ってしまう。
「何の教科?」
「英語、です」
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