14人が本棚に入れています
本棚に追加
私はだれ
私はアンリと言う名前らしい。自分のことなのに、らしいと言う表現がおかしいのはわかる。
ふと目が覚めた時、
「おぉ、アンリ。やっと気がついた」と声をかけられたのだ。
アンリ……って誰?
声のかけられた方を見ると、見知らぬ人が心配そうな顔をして私を見ていた。
私には全く見覚えのない人。
「あの、あなたは誰ですか?」と聞いてみたのだけれど。その人は少し驚いた顔をして、
「アンリ、大丈夫かい? 倒れた拍子に頭を打ったりして、記憶が混同しているのかな」と、首をかしげながら話す。
私の質問の答えにはなっていないですがと思いつつも、ハッとした。
記憶……? そうなのよ、いったい、ここはどこ、私はだれ状態。頭が真っ白で、本当に記憶がないみたい。
頭の中かパニックになっていることを悟られまいと、私はその人に同じ質問を繰り返した。
「あなた、どなた?」
その人は、白衣のような物を着ている。顔には銀縁眼鏡。白髪混じりの黒髪。年齢は四十代位だろうか。
その人は私の方を見ながら、
「私はここのクリニックの医師、森野と言います」
「……お医者様なんですか?」
「そうです。今朝方、あなたは私のクリニックの前に倒れていたので運び入れました」
「倒れていた、ですって?」
最初のコメントを投稿しよう!