散歩

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散歩

 目覚めて何日かたった頃。急に、 『アンリよ、お前は何のために地上へ降りたのか、よく考えたまへ』  そんな言葉が頭の中をぐるぐる駆け回った。その声の主を知っているような知らないような変な気持ち。  何の為に地上ヘ降りたかですって? それは一体どういう意味よ。記憶を失くした私にわかるわけないじゃないと思う。  新たな疑問を抱へた私が悶々とした表情をしていると森野が珍しく提案してきた。  きっと、記憶が戻らないことを悩んでいると思ったのでしょうね。 「アンリ、そろそろ、外出してみるかい?」 「……外出?」 「気晴らしに、近くを散歩でもしてみないか」 「……散歩」 「ここへ来てから一度もこの病室から出ていないし、少し体を動かすのも大切なことだよ」 「そうですね。外、出てみたいわ」 「よし。それじゃ、着替えを持って来るから」  森野が、足早に病室を出ていった。  私には森野が、なんとなく嬉しそうな気分で動き出したのがわかった。  なんで嬉しいと思うのかしら。
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