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ユウナ・アレクサンドリアは隣国のアムール国からやってきた。
アムール国は小国であったが、王政が安定しており住みやすい国であった。
その国でユウナは王様のメンタルサポート係として働いていた。
とても賢く穏やかな王様でしたが、妻との仲が大変悪かった。
国のことなどこれっぽっちも考えない悪妻で散財が趣味だった。
妻の評判はすこぶる悪かったが王様の人徳だけで保っている王国。
もちろん王様も妻に変わってほしいと説得してきたのだが、結局最後は大喧嘩で終わる。
一歩も引かない妻に王様は精神的に落ち込むことが多くなっていった。
ユウナはいつも王様の話をじっくり聞き、王様が自信と尊厳を保てるようにサポートしていた。
自分が働く王国はこの王様一人の裁量で動いているのだ。
王様が倒れてしまったら、なんの魅力もない国になってしまうのは明白だった。
悪妻から意地悪され煙たがられても、ユウナは献身的に王様をサポートした。
当然、王様もユウナを頼りにしており、破格の賃金を支払ってくれた。
一人身のユウナでは使いきれないほどの賃金だったが、使う暇もなかったのでお金はたまる一方だった。
しかし、ある日突然、王様が病気で逝去してしまった。
ご子息が新国王として即位され、ユウナにそのまま新国王のメンタルサポート役を継承するように命じた。
ユウナも”御意”と受け入れ、また王様にお仕えできると嬉しかった。
しかしそんな簡単に問屋は下ろしてくれなかった。
あの悪妻がユウナを新国王の側に置くことを嫌がりとんでもないことをやりだした。
「新国王はまだ18歳。
母親の私が摂政となり新国王をお助けします。
ユウナ、先代の側にいながら体調の変化に気づけなかった罪は重いのです。
お前はクビです。
この国から追放いたします。
早く出ていけ」
電光石化でユウナは役職クビになりました。
「まあ、いいわ。一生遊んで暮らせるだけのお金は稼いだしね。
王様のいないこの国には未練はないわ」
素晴らしい王様がいなくなり、あの悪妻が政治の舵をとれば間違いなくこのアムール国の住み心地は悪くなる。
だったら言われた通り退散して、住みやすい国にとっとと移住したほうが賢いなとユウナは考えた。
そうして老後の生活に手厚いこのアント王国にやって来たのだった。
役場で手続きを終えたユウナは日暮れまで街を歩いて散歩した。
中心地の街には隣国だけでなく海をこえた外国の品物がたくさん売っていた。
街にも人が大勢おり、買い物を楽しんでいる。
(国が豊かな証拠だな、町も人も活気にあふれている。やはりこの国に決めて正解だなっ)
アムールから移住してきたユウナはこれから住居探しとなる。
しばらくは宿を借りてこの街を観察して終の棲家を購入しようと計画しているのである。
「とりあえず今夜の宿をどうするかな」
そう言いながら掲げられた宿の看板を見ながら歩いた。
その時、街の外れで御者が大声で女性を怒鳴っていた。
ユウナは何事かと振り向いた。
目を凝らしてよく見ると、怒鳴られてオロオロ困っているのは、先ほど役場で手続きを担当してくれたあの金髪の女性であった。
(たしか生年月日が同じ人だ)
これだけならほっとけばよかったのだが、いかんせん御者の声が尋常ではなかった。
そこから逃げられなくなっている女性に怪訝な顔つきで話かけた。
「あの、どうかされました?」
ユウナは臆することなく2人の間に入っていった。
「あなたは……」
アザリアもユウナを覚えていたらしく目をぱちくりさせた。
しかし業者が大きな声で被せてくる。
「なんだよあんたはっ。
今、料金の交渉をしてるだけさっ。
関係ない奴はあっちにいってくれ!」
ユウナはキリっと御者を睨み、今度はゆっくりとアザリアを見た。
「穏やかな交渉には見えないけど?」
「あっあの、家に帰るのに馬車に乗ろうとしたら、今日は忙しいから料金がいつもの3倍になるっていわれて……。
私、3倍なんて払えないのでどうしようかと……」
アザリアはオロオロしながら胸の前で手を組んでそう説明した。
街に人はいたが馬車を取り合い程の混雑はない。
こいつはただの悪徳業者、関わらないほうがいい、そう考えたユウナはアザリアの手を取った。
「ねえ、ここで再会したのも何かの縁。
一緒に食事でもしない?
暇だし付き合ってよ!」
そういって返事を待たず、困惑するアザリアの腕をとり街中に連れ去った。
ほっとかれた御者はポカンと口を開けてみていた。
「あのっ、ユウナさん、ありがとうございましたっ」
アザリアは丁寧に頭を下げた。
ユウナの足がピタリと止まり、くるりとアザリアに振り向く。
「なぜ私の名前知ってるの?」
「だってさっき書類に名前が載ってましたから」
「あっそうか」
「私はアザリア・オルフェイスと申します。
改めて、困っていたところを助けていただき感謝申し上げます。父が待っておりますゆえ、1時間程でしたらお付き合いできますわ」
そう言ってアザリアが手をそろえ深々とお辞儀をした。
戻った顔には嬉しそう緩んだ頬が見えた。
どうやら先程のアザリアを逃がせる為のユウナの口上を本気に捉えたらしい。
アザリアはおっとりで言葉・所作の端々に上品さを感じさせた。
きっと言葉の裏を読めるタイプでは無かった。
ユウナもそれを感じ取り、少し迷った顔でアザリアに言った。
「ピザ、食べてく?」
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