【序幕】

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【序幕】

 女優になりたい。  それが(みやび)の夢だった。  小学校低学年の頃、地元の札幌で上演された親子向けミュージカルに連れて行ってもらったのがきっかけだ。  煌びやかな衣装で歌い踊るステージ上の役者たち。  容姿や運動神経は並以上だとしても、「普通の子」の範疇からはみ出すことはなかった少女は、日常とはかけ離れた華やかな世界に魅了された。  帰り道、母にずっと舞台の感想を話し続けていたという。「あたしもあんなふうになりたい!」と繰り返しながら。  雅自身は、感動したことはともかく母への語り掛けについてはまったく覚えていないのだが。 「ぜったい途中でやめないから。何でも言うこときくからおねがい!」 「……もし投げ出したら、もう『絶対』も『一生のお願い』も二度と信用しないからね」  毎日のように懇願されてとうとう根負けした親に、児童劇団に入れてもらうことができた。『夢』のスタートラインに立てた! と輝かしい未来への希望が心に身体に溢れていたあの日。  それからずっとスポットライトの真下を目標に、演技はもちろん歌もダンスも必死で頑張ったのだ。
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