【第二幕】

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 そして郁海は、もしかしたら雅より演技力があるのでは、と感じることもあった。  ずっと演技メインでやって来た雅より、脚本と演出希望で実際には裏方なら何でもやる彼の方が。  郁海は相当な努力家だ。  そのことは、たぶん誰よりも雅が知っている。ただその努力の内容は、決して演技力向上のためではない。  しかし目的とするところは違っていても、結果的に彼の演技力には磨きが掛かっている、と感じていた。  つまりは天性の能力のなせる業なのだろうか。  脇で舞台に立ったことはあっても、あくまでも例外にして欲しい、と言い切った郁海。  できるし上手なのに、彼は特に「役者」をやりたいわけではないのだ。  ──あの劇団の先生の言葉は、「役者としてよりはモデルの方が」って意味でただの事実だったんだよね。  あくまでも雅のことを考えて、貴重な若い時間を無駄にしないようにアドバイスしてくれたのだ、と二十歳を過ぎてようやく理解できた。
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