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【第三幕】
直接訊いたことなどはない。向こうが自分から口にしたわけでもなかった。
しかし共有する時間が増えるに従い、打ち明け話などしなくとも言葉を介さずに自然と相手の深い部分にも触れ合うようになって……。
郁海の恋愛対象が男であるらしいことに雅は気づいてしまった。
同時に、彼の『演技』は性指向を隠すためでもあるのではないか、と腑に落ちた気がする。
演劇人は変わり者も多いし、同性愛にしても特に抵抗なく受け止められる下地はある。「『普通じゃないこと』に重きを置く自分カッコいい!」といった価値観など珍しくもなかった。
郁海が素を晒しても、サークルでは別に浮かないだろう。
ただ、彼が怖がるのもわかる。仲間内はともかく、それ以外の大学や社会ではやはり異端として扱われる可能性が高いからだ。
出会って以降、彼は何人かの『男』と付き合っていた、と思う。なんとなく雰囲気が変わるので、雅にはわかってしまった。
部屋に呼ばれることもなくなるため、そちらの側面でも「ああ、『彼氏』ができたんだな」と悟る。
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