【第一幕】

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「高校の演劇部には所属してたけど、あんま活発なとこじゃなくて文化祭で『劇』やるだけみたいな。俺は一応脚本担当で……」 「脚本!? すごいじゃん!」  雅の感嘆に、彼は苦笑し肩を竦めて見せた。 「いや、ホント名前だけ。実際には他の部員と変わんなくて、役も裏方も普通にやってた。演目は結局、顧問の独断と偏見で全部決まってんの。俺の書いたもん碌に見もしねえんだよ」 「あー、あたしは部活ってやったことないけど顧問の先生によって全然違うらしいね。運動部とか極端だって聞いたな」  中学は劇団の活動、高校はそれこそ受験勉強で、学校の部活には参加する余裕などなかったからだ。 「生徒は教師(自分)が成果出すための駒としか思ってないんじゃねえの? 今更だけど自己流では中学の頃から書いてたし、文芸部の方がよかったかもな。だから大学では脚本と演出やりたいんだ、俺」  淡々と、しかし熱を帯びた口調で語る同輩が少し眩しかった。彼の手にはアイスコーヒーを湛えたカップ、雅は烏龍茶だ。  泥酔して割る学生がどの学年もかならずいるから、と食器はすべて無粋な樹脂製だった。  手元がおぼつかなくて落とすのは仕方がない。不可抗力でしかないだろう。  しかし演劇論を戦わせるうちに頭に血が上って床に叩きつける、ましてや投げつけるまで行くと、周りにも危害が及びかねないからだ。
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