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赤いヘリコプターは
まるで『何か』を探しているかのように
同じところを何度も旋回していた。
「あれって、消防のヘリよね…!?」
芹香さんが目を輝かせながら言う。
「冬馬よ…!絶対にそうだわ…!」
私も同じ事を思った。
私と芹香さんは、二人で窓から両手を振り
必死に居場所を知らせる。
だけどヘリコプターはなかなか私達の所に近づく気配がなかった。
芹香さんはその状況に焦りを感じているようだった。
「これで気づいてもらえなかったら…捜索済みだと認識されて、もう探しに来てくれないかも…」
「大丈夫、必ず気づいてくれますよ」
私は確信していた。
__『必ずオレたちが助けに行くから、生きることを絶対に諦めるな』
彼の言葉が私の気持ちを強くした。
「芹香さん、悪い事より、良い事を考えましょう…!」
「良い事って…」
「彼は必ず助けてくれる。それを前提に今からどうするのか…それを考えましょうよ!」
一連の過程で、芹香さんはパニックになり、
一度取り乱すと正気を取り戻すことが難しくなると知った私は救助の妨げになると踏んだ。
ここから先は『芹香さん優先で』事を運ぶことにしたのだ。
私はまず、白い布を窓の外へと靡かせ、気づいて貰えるように目立たせた。
「芹香さん、ヘリでの救助って、順番に一人ずつなのは知ってますよね?」
「そうなの…?…だったら私は一番がいい、少しの間もこんなところに一人なんて嫌よ」
芹香さんがそう言うことは私の中では想定内だった。
「はい…だから私は後でいいですから」
「本当にいいの…?」
「私、案外平気みたいです」
私はそう言って笑って、余裕を見せた。
いざ救助してもらう時に
誰が最初とか誰が後でとかで揉めるより
スムーズに事を運んだ方が効率がいいと思った。
「だけど、誰を先に救助するのかは、救助隊員が判断するのよね?」
「…おそらくそうでしょうね…」
「……そんなの嫌よ、確実に私を選んでほしい」
芹香さんは突然ネガティブになりだした。
「大丈夫、私からもお願いしますから」
「だけど…あなた気づいてないみたいだけど…」
そう言いながら芹香さんは
私を指差しながら言った。
「肩…怪我してるわよ…」
「肩…?」
芹香さんが指差すところに目を向けると
肩の部分の服が赤い血で染まり汚れていた。
「こういう時って…ケガ人が優先でしょ?」
だけど指摘されないと気づかない程、
ケガの痛さは何も感じなかった。
「大したことないですよ、こんなケガは」
私はそう言って、部屋にあったシーツを肩に羽織ってケガを隠して芹香さんに見せた。
それから私は芹香さんにある提案をすることにした。
「芹香さん…、救助隊員が確実に芹香さんを優先して救助してくれる方法が一つだけあります」
「確実に…?どんな方法…?」
「少し…、怖い思いをしてもらう事になります」
「危険なことをするってこと?」
「はい、だけど私も手伝いますから!」
私は以前、
彼からこんな話しを聞いた事があった。
集中豪雨で河川が氾濫し、孤立してしまった集落に住む、ある家族の話しだった__。
「その家族は全員逃げ遅れて家に取り残されていた」
「家族全員って…」
「夫婦二人と小さな子ども三人、合わせて五人」
「…五人…」
「父親は家族を助けて欲しく危険を顧みず一人、家の屋根に登りヘリに向かって助けを求めた」
「子どもを守るために行動したお父さんはすごいですね…!」
「確かに…でもな、救助する側は救助者の中でも優先順位をつけるんだ」
「……その場合って小さな子どもたちと、女性である奥さんですよね…?」
「いや、その場合…一番危険度の高い、屋根にいる父親が最初の救助者になる」
「え…」
「子どもを守る為に起こした行動だとわかってはいるが、オレたちは父親を一番に救助することになった」
__私はこの時の彼の話しを思い返していた。
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