132人が本棚に入れています
本棚に追加
間近で見るその男性の顔は
まさにパーフェクトだった。
見れば見るほど整った顔立ち。
額に奔る汗すらも美しく見えた。
黒く大きな瞳は、吸い込まれそうなほど力強い。
スラリと伸びる長い足に
バランスの取れた筋肉質な体。
ドックン……
無意識に高鳴る鼓動。
この時一瞬にして
私は男性に心を奪われたのだった……。
「大丈夫か?」
低くて聞き心地のいい男性の声。
「はい… 本当にありがとうございました。」
座ったまま頭を下げる私。
「頭、打たなくてよかった。
あ、手首擦りむいてるな……」
挫いた足首の痛さで、腕のケガは自分では気づいていなかった。
「手の傷は水で洗うだけで十分だから」
「そうなんですか……?」
「あと、どこか他に痛むところは?」
「いえ、今の所はないです……」
「今は痛くなくても後になって痛みがわかる場合もあるから。 念の為後で病院で診てもらった方がいい。」
冷たいのかただ単に冷静なのか……
淡々と話す男性が少し怖く感じた。
「家はどこ? ここから近い?」
「そんなに遠くはないです……」
「その足じゃ帰れないよな?」
「なんとかして…帰ります……」
「なんとかって? 誰か迎えに来てくれる人は?」
「いません……けど」
「ハァ…じゃあオレが連れて帰る。」
面倒くさそうに呆れられてしまった。
「もう十分お世話になったので、本当に自分でなんとかします! どうぞ、もう行ってください。」
「それができたらオレもとっくにそうしてる」
そう言って、冷たいけど親切なその男性は
私の前に背中を見せてしゃがみ込んだ。
「ほら、乗って!」
「えっ……!? って、まさかおんぶで……!?」
「オレは職業柄、困った人間を放ってはおけない性分なんだ。助けが必要な人を助ける。」
「いや、でも……」
「オレは特別救助隊だから」
「トクベツ…キュウジョ…タイ…?」
「いわゆるレスキュー隊ってやつ? 聞いたことあるだろ?」
「えっ?あの…災害や事故で人を助ける……?」
「そう。人命救助がオレの仕事。」
「人命救助……」
「だからあんたみたいな……特にケガ人を無視なんてできない。 わかったらさっさと乗れ。」
その男性の強い口調と強引さに怖気づき
気づいたら背中に飛び乗っていた。
広い背中におんぶされながら
私は起こった事を振り返った。
痛いところを詳しく聞いてきたり
慎重に他の場所のケガを探したり
ケガの対処法を知っていたり
初対面なのに助けてくれたり。
"レスキュー隊"だからかぁ……
背中に乗って近い距離なのに
自分とはかけ離れたその男性が
遠い雲の上の存在に感じたのだった__。
最初のコメントを投稿しよう!