132人が本棚に入れています
本棚に追加
私の想像を遥かに超越する彼の過去を知り、
私は改めて、自分とはかけ離れた世界で生きる人なんだと思い知る。
「…話してくれてありがとうございます…」
きっと、思い出すだけでも辛いはずなのに…
口に出して話してくれた彼。
「ところで、さっきの質問に戻るけど、
なんで『好きになってはいけない』って言ったんだ？」
彼は全てを悟っているかのようだった。
だけど…、彼の過去を聞いた直後に、本当の事が言えるわけがない。
「市原さんは芹香さんの事…どう思ってます…？」
「芹香はただの幼馴染みだって言ったろ？」
「はい…、だけど京香さんの願いは…？」
「気持がないのに付き合えるほど、オレは器用じゃない」
芹香さんは、そんな彼の気持を知っているのだろうか…それともいつかは自分に振り向くと、待っているのだろうか…。
芹香さんの彼に対する思いも相当なものだと思った。
「芹香になんて言われた？」
話しが堂々巡りになると思った私は
もう本当の事を話そうと決めた。
「市原さんは誰とも付き合わない、むしろ付き合えないって聞きました…それに、最終的に市原さんは芹香さんを選ぶ…とも言っていました…
それってやっぱり京香さんのことがあったからですよね…？」
「それがお前の、『オレを好きになってはいけない理由』なんだな？」
改めて考えて、彼に話して…
私が諦めようと思った理由はやっぱり『報われることはない』と気づいたからだ。
「……はい、」
「そうか……でも、
オレの口からはまだ何も言ってない」
「え……？」
言われてみれば確かにそうだった。
芹香さんに言われた事を気にして、自分で勝手に気持ちをごまかそうとしていた…。
彼の口から真意を聞いたことはなかった。
「確かに…芹香が言っていることは一理はある。
京香を失ってから、オレは大切な存在を作ることを恐れていたと思う」
わかってはいたけど、彼の口から直接聞くと…
やっぱり胸が痛んだ。
ただ恋人と別れたわけではなく、
命を失っていなくなってしまったのだから。
「また失ってしまうんじゃないかと、不安が常に付き纏う…」
「それは…そんな過去があったから、そうなるのも仕方ないと思います……だから私の気持ちは『受け入れられない』って言ってくれてもいいんです。」
だから何度も諦めようとしたんだから…。
自分に必死に言い聞かせる。
「だけど…、人を好きになる気持ちは、無意識に湧いてくるもんだろ？どんなに自制しても、好きな気持ちはどんどん加速する…理屈じゃないんだ、誰かを想う気持ちって」
「…そう…ですね…」
『理屈じゃない』
それは私が一番よくわかっている。
諦めようとしても離れようとしても、好きな気持ちは無くなるどころか、どんどん大きく膨れ上がるのだから。
「お前はオレをもう好きにならないって言ったよな？」
「…(コクン)……」
「オレの気持ちもまだ聞いてないのに？」
「え…だから…失うのが怖いから…もう誰とも付き合えない…が答えですよね…？」
「だから、オレの今ある本当の気持ちはまだ言ってない」
「……じゃあ…聞くので言ってください」
彼が何を言いたいのかわからずにいたけど、
この際だからはっきりと彼の口から聞いて
潔く玉砕しようと思った。
私は目を閉じて深呼吸をし、
彼の『本当の気持ち』を聞く心構えをする。
「オレは…」
体全部が心臓になったみたいに
ドクンドクンと大きく鼓動する。
＿＿「お前が好きだ」
私は聞き間違いではないかと自分の耳を疑った。
「え…？ち、ちょっと待って…」
私は固まったままの姿勢で必死に考える。
そんな焦る私の顔を覗き込みながら彼は
「オレはお前が好きなんだ」
真剣な眼差しで私を見ながら再びそう言った。
聞き間違いではないと確認できてからも
私の頭は混乱した。
「…でも……『そういう存在は作らない』ってさっき…」
「作らないんじゃない、作るのが怖いって話しだっただろ？」
「…確かに…」
「付き合う付き合わないは別として、オレの気持ちは、お前が好きだってことだ」
彼が言った、『付き合う付き合わないは別として』の意味がイマイチ理解できななかった。
「ってことは…両想い…ってやつです…よね？」
「そうなるな 笑」
「だけど…恋人には…なれない…的な…？」
「今はまだ付き合わない」
「『今は』って？」
「お前のお陰でオレには新たな目標ができた、
その目標が達成できた時…その時もう一度、オレからお前に気持ちを伝えたいんだ。
お前がその時まだオレの事を好きでいてくれたらの話しだけどな」
そう笑みを浮かべながら話す彼。
これは夢ではないかと、まだ信じられないながらも
「どんなに先でも未来でも…
私はずっと市原さんが好きです…！」
泣いているのか笑っているのか自分でもよくわからなかった。
だけど悲しさなんて微塵もなかった。
たとえ『恋人』でなくても…
好きな人と同じ気持ちで通じ会える、
なんの駆け引きもなく『好きだ』と言い合える、
こんな単純な事で、こんなにも幸福を感じれる事なのだと、
この時初めて、私は知った。
最初のコメントを投稿しよう！