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友達以上恋人未満
私も彼が好きで、彼も私を好き。
同じ気持ちで通じ合っていると知ってからの日々は
いつもと変わらない日常が楽しく
いつもと変わらない景色さえも美しく見えた。
彼との関係は『友達』よりも深く…
だけど、『恋人』よりは浅い…そんな関係だった。
でもお互いの想い合う気持ちを感じるだけで
私の心はその形にこだわることはなかった。
出逢ったあの公園での早朝ランも
彼からの提案で再開した。
走りながらも他愛のない会話は
止まることなく続く。
「いつから私の事好きだった?」
憎ったらしい顔で彼に詰め寄る。
「気になったのは多分…初めて会ったときかも…」
そう照れくさそうに答える彼。
「うそ…!全然相手にされてないのかと思ってました。ってか、隠すの上手すぎません!? 笑」
「隠すの大変だったんだぞ?」
小さな事がいちいち嬉しい。
「和樹がお前にキスした時、本当はすぐにぶっ飛ばしてやりたかった 笑」
「うんうん…、怒りが隠せてなかったもん」
「お前が襲われそうになったときは正気ではいられなかったし…自分でも驚いた」
「和樹が言ってたことは本当だったんですね…」
「お前と和樹が一緒にいるところを見ると無性に腹立つし」
「それって…もしかして…ヤキモチ!?」
「うるせーよ!」
私のイジりに彼は照れて、ふざけて私の首を羽交い締めにした。
こうやって出会ってからの出来事を振り返って
その時のお互いの気持ちを答え合わせする…、
そんな小さな事にさえも幸せを感じた。
『好き』と言う気持ちを伝え合っただけで
今まで言えなかったことがこんなにも素直に言い合えるなんて。
「あ、そういえば…市原さんの新しい目標って?」
「うん、実は…特別救助隊の更に上を目指そうと思ってる」
「特別救助隊より、上って?」
「特別高度救助隊」
「トクベツ…コウド…キュウジョタイ…?」
「ハイパーレスキューのことだよ」
「……それって難しいの?」
「誰もがなれるわけじゃない。特別救助隊以上に学ばなければならない事も多い、死ぬほどの努力に努力を重ねてやっとなれるってとこ」
「今でも十分すごいのに…?」
「お前の存在がオレをやる気にさせてくれた」
「え…?」
「こんな危なかっかしい奴を隣に置いておくとなると相当の体力、技術、鋼の心が必要だな…って 笑」
「え…私ってそんなにダメ人間!? 笑」
「ハハ、それは冗談だ。だけどお前を守れる自信と実際に守れる力をつけたい、それがオレの『過去を乗り越える』ってことだから」
私の頭をポンポンと叩きながら
そう笑顔で話す彼は、いつもより格段に輝いて見えた。
「そんな事より、お前はこんなオレの傍に居るんだからメンタル鍛えとけよ 笑」
「メンタル…?」
「前みたいに心配になる度に行動してたら身が持たないぞ 笑」
「そっか…何度もあんな思いするのか…」
命懸けで人を助ける彼を誇りに思う。
だけどメンタルを鍛えてどうにかできるものなのかと、私は少し不安だった。
「なんだ…?怖気づいたか? 笑」
だけど、こうして彼と一緒に過ごせなくなる日々の方がもっと嫌だと思った。
人の命を助けたいと強い思いを持つ彼。
人の命を救うことで、悔いる過去の悪夢を
無駄にはしないと、彼の努力が物語る。
そんな彼に対し、私が出来ることは
『行かないで』や『傍に居て』と言う事ではない。
彼の強さを信じ、背中を押し、
無事に帰ってくることを祈り、待つことだ。
「私も頑張って鍛える!!」
彼に合わせて、彼と共に、
私も強くなりたいと心から思った。
「よし…!じゃあ早速試練が間近だ」
「試練?」
「お前、ニュースとか全然見ないんだな…」
「見てない…」
「今最強クラスの台風が日本列島に近づいてる」
「あぁ!確か、バイトの店長が言ってた!」
「恐らくこのままだと直撃コースだ」
「え…こわい…」
「災害の時、オレはお前の傍に居てやりたくても居てやれないんだ」
「あ……うん、わかってますよ…」
「災害時は確実に要救助者が出る、だからいつでも出動できる準備をする必要がある」
「それが…市原さんの仕事…ですもんね…!」
「そうだな。でも、安全な場所に居れば大丈夫だからな…!
くれぐれもお前が要救助者にならないように、今の内にしっかり対策しとけよ? 笑」
「余計なお世話はかけませんからご安心を… 笑」
だけど私は…
これから突然やってくる想定外な出来事によって、
彼からの忠告を蔑ろにし、
良からぬ方向へと足を踏み入れてしまうのだ__。
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