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__『留守番電話サービスに接続します』
もちろん想定内だ。
私は留守電にメッセージを残す事にしていた。
「もしもし…市原さん、お疲れ様です。
実は私、市原さんに謝らないといけない事があって……」
『きっと彼がこれを聞いたら怒られるに違いない』
そう思いながらも深呼吸して覚悟を決めた。
「実は…今、芹香さんの別……」
__プツン…プー、プー、プー…
話している途中で突然電話が切れてしまったのだ。
慌ててケータイの画面を見ると『圏外』の文字。
台風の影響か、山の中だからか
電波が繋がりづらい状態だった。
私は電話を諦めケータイをバッグにしまった、
、と同時に芹香さんが戻ってきた。
「あったわ、手紙」
「良かったです…じゃあ帰りましょう」
「手紙の内容…気にならないの?」
__『冬馬がアレを見たら、そんな気も無くなるかもしれないわね』
さっき芹香さんが匂わせた一言が気にはなった。
だけれど…
「私が知るべき内容ではありません。
京香さんが市原さんに宛てて書いた手紙だから」
「本当にあなたっていい子ぶるのね」
私はそんな事より早くここを出たかった。
「わかったわよ、出ればいいんでしょ」
そう芹香さんが言った時だった__、
__『ゴ…ゴゴゴゴ…』
突然外から変な音が聞こえてきたのだ。
その音は地響きのような…低く鳴り響くなんとも言えない音だった。
「芹香さん、今何か聞こえましたよね…?」
「え…?何も聞こえないわよ」
__『ゴゴゴ…ゴゴ…』
「ほら!今聞こえた!」
「風の音でしょ?そんなことはどうでもいいから
早く出るわよ」
「ちょっと待って…!」
私は芹香さんの腕を引っ張り行く手を阻んだ。
「もう…!なによ!?あなたが『帰りたい』って言ったんじゃない!」
そんな怒る芹香さんの言葉より
自分が感じる嫌な予感の方が怖かった。
__『災害などで危険が近づいてる時、動物は本能が働く、もちろん人間もだ。だから自分の直感を信じてできるだけ回避行動を取れるようにしておけ』
彼が大学の防災訓練のときに講話で話した内容を思い出した。
『嫌な予感』『胸騒ぎ』
もしかしたら…私の本能が危険を知らせているかもしれない。
__『ゴゴゴゴゴ…』
「芹香さん…!逃げなくちゃヤバいです!」
「え…!?」
私は有無を言わせず芹香さんの手を引っ張り
ログハウスの一番高い三階まで一気に駆け上がった。
そして、
私達が三階にたどり着いた瞬間だった__、
__『ゴゴゴゴ…ズドーン!…バーン!』
突然、大量の土砂と水が川のように流れてきて
ログハウスの一階が一瞬にして無くなったのだ…
流れは勢いを増すばかりで
私達がいる三階も不安定に揺れ、残ったログハウスごと流されてしまいそうな勢いだった。
『このままではまずい…』
私は焦りながらもふと、さっきまで引っ張っていた芹香さんがいない事に気づいた。
部屋を見渡すと芹香さんは建物が揺れた勢いで転倒し部屋の隅で気を失い倒れていた。
「芹香さん…!大丈夫ですか!?」
私は必死に声をかけた。
「う…うぅん…」
意識はあり、怪我もしていなさそうだった。
そんな時、またしてもログハウスが揺れ、建物が更に斜めに傾いた。
建物が傾いたからか、芹香さんの近くにあった大きな鏡が芹香さんの上に今にも倒れそうだった。
私は必死に芹香さんを移動させようとするも
なかなか動かすことができなかった。
私はその大きな鏡の方を動かす事にした。
鏡に手をかけたその瞬間、突然鏡がバランスを崩し
私と芹香さんの上に倒れてきた。
「危ない…!」
私は咄嗟に、倒れる芹香さんの上に覆いかぶさった。鏡は割れ、床に散らばった。
肩から二の腕に一瞬激痛が走ったものの私も芹香さんもなんとか無事だった。
「真夏ちゃん…?大丈夫…?」
芹香さんは目を覚ましていた。
「私は大丈夫です。芹香さん、どこか痛みますか?」
「私も大丈夫よ」
私は自力で体を起こし、芹香さんの手を引いて立たせた。
改めてログハウスの下を見ると、土砂も濁流も
さっきよりも酷くなっていた。
二階部分もほぼ原型はなく、私たちの居る三階部分だけが取り残されている状態だった。
「これって…土石流…ですよね…?」
「私達どうなるの?」
私はハッとして窓の外を見た。
「ウソ…っ…!」
私は外を見て思わず声を上げた。
なぜなら…
窓から下を見ると辺り一面土砂で
とてもじゃないけど、下りれる状態ではなかったからだ。
「え…なんなのコレ…!?」
芹香さんも窓の外を見て驚きを隠せずにいた。
「いやよ…!死にたくない…!」
芹香さんは取り乱し泣き崩れた。
「大丈夫…!きっと大丈夫だから…!」
私は必死に芹香さんをなだめた。
もちろん私だって怖いし泣きたい。
でも……
__『ただ助けを待つだけじゃダメなんだ、
助けが来るまで自分を守れるのは自分しかいない』
彼がいつしか言っていた言葉が
ここでも頭に思い浮かぶ。
助けがが来てくれるまで
今、私にできることをしなければ。
とてつもない恐怖に駆られながらも…
私は自分を奮い立たせた。
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