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とにかく今はパニックになってはいけない。
冷静に冷静に、、事を判断しなくては。
だけど、必死に冷静さを保とうと必死な私とは裏腹に
「ここに私たちがいるなんて、誰も気づかない…
もしこのままだったら…」
芹香さんはすでにパニック状態だった。
「芹香さん、落ち着いて…!大丈夫!市原さんなら…必ず気づいてくれるはずです…!」
「……そう…よね…きっと…絶対に冬馬が助けに来てくれるわよね…」
「そうですよ…!信じて待ちましょう?」
芹香さんは彼の存在で正気を取り戻せたようだった。もちろん私も、芹香さんを励ましながら、『彼が必ず助けに来てくれる』と自分自身に言い聞かせていた。
なんとかして助けを求める方法を考えるも、
唯一の頼みの綱だったケータイ電話は繋がらない…
彼に連絡する手段が何一つなかった。
だけど私は冷静に考え、今現在、私達が災害に巻き込まれたと気づいてもらえなくても、後で必ず気づいてくれると確信していた。
彼がもし私達に気づくとしたら…、
任務が終わり家に帰ってきた時。
家で待っているはずの私がいないと彼がわかった時だ。
「災害時の救助ってどれぐらい時間がかかるんだろう…」
私がそう呟くと、
「冬馬がレスキューの仕事するようになって、長く帰れなかったときで二週間の時があったわ」
「二週間…!?」
「職場で寝泊まりしてたみたいだけど…」
私はそれを聞いて焦った。
食料もない、水もない状態で
もし彼が二週間気づかなかったら……
私と芹香さんは命を繋ぎ止めれないかもしれない。
「芹香さん…、今日この別荘に来る事を知っている人はいますか…?」
芹香さんがパニックにならないように
必死に平然を装い尋ねた。
「いないわよ…だってあなたを見つけて思いつきで来たんだもの…」
「そう…なんですね…」
「それがどうかしたの…?」
「…いえ……ただ聞いてみただけです…」
芹香さん関係の人は気づいてくれる人がいなさそうだとわかり、やっぱり彼しかいないと思った。
私は再び窓の前に立ち、外を見ながら考えた。
気づけば台風が通過したのか、風の音が鳴らない時間が増えていた。
救助を待つ私達の部屋は、雨の音と、濁流の音だけが鳴り響いていた……。
そんな中、芹香さんが静かに口を開く。
「私は小さい頃からずっと冬馬が好きだったのよ。だけど冬馬と京香は私の知らぬ間に付き合っていた。悔しかったけど、京香は私にとっても自慢の姉だったし、私も大好きだった、だから二人を見守ることにしたの」
知り得なかった三人の過去を
私はまた、新たに知ることになった。
「京香が死んで、私ももちろん辛かった…
人って…こんなに泣けるんだってぐらい…毎日泣いてた。もちろん冬馬も私と同じだった」
『家族』や『恋人』が亡くなる。
そんな経験のない私からしたら、その辛さや苦しみは計り知れない。
「冬真は自分も辛いはずなのに、私にずっと寄り添ってくれた」
同じ辛さを経験した人にしか
本当の辛さを知ることはできない。
「冬馬から京香の最後の言葉を聞いた時、
京香は私が冬馬を好きだってことを気づいてたんだって思った」
__『私が居なくなったら芹香を宜しくね』
京香さんは全てを察して、彼に芹香さんを託した。
「冬真は京香の最後の望み通り、私を大切にしてくれた……でもそれはあくまで、幼馴染みとしてってだけだった…なのに…なんであなたは…」
芹香さんは座ったまま膝を抱え
顔を隠して泣いていた。
芹香さんの話しはまるで『彼を諦めて』と
言っているようだった。
私は小さくなった芹香さんを見つめていた。
私は彼を運命の人だと思った。
『運命』って…、
繋がった二人だけのことだと思っていた。
だけど現実はそんな綺麗なものではなかった。
『運命の人』は知らないところでまた誰かの運命を変えていると知った。
だけれど、
「私は三人にどんな過去があっても彼を諦めたくはありません。過去の出来事を、諦める理由にしたくはありません…!」
芹香さんを真っ直ぐ見つめながら言った。
過去の私なら…諦めていたかもしれない。
誰かを犠牲にしなくてはならない恋なのなら…
圧力に怯みそうな恋なのなら…
諦めた方がうんと楽だから。
だけど私は知ってしまった。
どんな困難が待っていても
どれだけ誰かを犠牲にしても
彼を諦めること以上に辛いことはないって。
それぐらい…
彼を想う自分を知ってしまったから。
だけど芹香さんも
「私だって、真夏ちゃんを諦める理由にしたくないわ」
私が想像するより遥かに
彼の事を強く想っていると知った。
そんな時だった__、
__『パラパラパラパラ……』
「遠くでなにか音が聞こえる…」
そう言って芹香さんが窓の外を見た。
私も窓まで駆け寄った。
空を見上げると小さな点にしか見えなかったそれは、
近づくに連れて大きな音と共に
鮮やかな色味で私の瞳を惹きつけた。
「あれってヘリコプターじゃない?」
芹香さんはそう言って私の肩を揺さぶった。
「うん…!間違いなく、ヘリコプターだ…!」
初めて見てもすぐにわかるそれは
赤く輝く太陽の様だった__。
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