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ただおんぶされ、無言のまま時が流れるこの空気がなんとも気まずい。
「いつもあの公園、走ってますか?」
「いや、今日がはじめて。 引っ越してきたばかりだから。」
「だからか……」
「あんたは? いつも走ってるの?」
「はい、雨の日以外はほぼ毎日。」
「走るの好きなんだな」
「好きっていうよりは、やらなきゃ気が済まないってゆうか……」
「オレと一緒だな。」
「これからもあの公園で走りますか?」
「あの公園のコース、なんかいいよな。 多分お気に入りのランニングコースになると思う。」
その言葉を聞いて、私の胸が高鳴った。
気づけば自分の住むマンション前に着いていた。
「本当にご迷惑おかけしました……ごめんなさい」
「いや、いいトレーニングになった 笑」
そう言って笑った男性の笑顔を見た瞬間、
私の胸の鼓動の高鳴りは、より一層強くなり
体中に電気が走るような感覚が襲った……
と、同時に
行こうとする男性の腕を、私は無意識に掴んだ。
驚く顔を見せるその男性に
「お名前お伺いしてもいいですか!?」
私は咄嗟に問いかけた。
自分でも驚いた。
初対面の男性に向かってこんな行動を取る自分に。
でも聞かずにはいられなかったのだ。
「オレの名前は市原冬真
あんたは?」
「私は、斎藤真夏です! 大学生です!」
「なんだ、大学生か 笑」
……大学生じゃダメなのだろうか。
「ちゃんと病院行けよ。笑」
「本当に今日はごめんなさい!」
謝ってばかりの私に男性は笑ってこう言った。
「ごめんなさいの言葉より、ありがとうの言葉の方がオレは嬉しい。ありがとうの言葉だけで、今までも、そしてこれからのオレの活力になるから。」
帰る男性の背中を
私は見えなくなるまでずっと見つめていた。
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