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嵐の後の凪
目を閉じていても感じる眩い光で
自然と目が開く__。
誰かが私の手を握り締めているのを感じた。
その温かくて大きな手は、私の大好きな手だと
すぐに気づく。
うまく力の入らない私の手は、必死に握り返そうとも…かろうじて、指が動く程度だった。
だけどそんな小さな私の指の動きにも
見逃すことなく応えてくれた。
「…真夏…!」
それは間違いなく、愛おしい彼の声だ。
夢の中で何度も聞いた声が
はっきりと、今、私の鼓膜を震わせ、
生きている事を実感させてくれた。
「……泣いてた…でしょ…?」
私はかすれた声でフッと笑いながら
冗談交じりに彼に言う。
「こんな時にふざけんなよ…」
彼も笑って私の冗談に突っ込む。
「元気になったら思いっきり説教してやる」
きつい叱りの言葉とは裏腹に
そう言いながら私の頭を撫でる彼の手は優しい。
「…助けてくれて…ありがとう…」
目を閉じると涙が溢れた。
その涙を指で優しく拭いながら、
「助けられたのはオレの方だ、、
お前の強さがなかったら…オレは判断を間違えてたかもしれない…」
だけれど…
「その強さをくれたのは…市原さんです……
市原さんが私を強くしてくれた…
必ず助けてくれるって信じてたから…」
私がそう言うと
私の手を、彼は更に強く握った。
「元気になったら真夏に伝えたいことがある」
真剣な眼差しで、私を見つめて彼は言った。
それが何なのかは私にも薄々気づいてはいたけど
それを楽しみに早く元気になろうと
自分の中で意気込んだ。
__一ヶ月後…
「初っ端から飛ばすなよ」
「体が鈍ってヤバいから」
出逢ったあの公園で彼と並んで走る私。
「そう言えば……伝えたいことって?」
ニヤニヤしながら彼に詰め寄る。
「今かよ」
彼は照れくさそうに笑いながら顔を横に逸らす。
「頑張って元気になったのに…」
そう言いながら私は、
口を尖らせ不満気な顔を見せた。
「…そうだな……」
彼は一瞬考えたが、吹っ切るように、
「今後の計画を発表する」
両腕を組み私の前に立った。
「今後の計画…?」
私は思っていた一言と違っていて、首を横に傾げた。
「オレはお前……いや、真夏が好きだ!」
この一言で私は恥ずかしさと嬉しさで
目をパチパチと瞬きさせた。
「私も…!大好きです…!」
「オレと付き合ってくれるか?」
「はい…!喜んで…!」
「それから…」
「それから…?」
彼はその先をなかなか言わずフリーズした。
「早く言ってよー!」
「オレ…選抜メンバーに選ばれたんだ」
「選抜メンバー…?」
「ハイパーレスキュー」
「すごいじゃないですか…!目標達成ですね!」
「…うん…そうだな…」
嬉しい事のはずなのに、彼の顔はどこか浮かない。
「嬉しくないの…?」
「…嬉しいよ、、だけどしばらく異動になる」
「異動って…」
「ハイパーレスキューは学ぶ事が多いから…
今みたいにお前と一緒に居てやれなくて…」
「そうなんだ…」
正直、離れる事なんて考えてもいなくて、
様々な思いが頭の中を交錯した。
「もし、オレがハイパーレスキュー隊になれたら……その時はお前を迎えに行く」
彼の中ではもう、心は決まっているのだと感じた。
私が何も言葉が出なかったのは…
応援したい気持ちより、離れたくない気持ちの方が大きかったからなのかもしれない。
「………」
「寂しいよな……オレも寂しい」
「………」
「オレがお前を迎えに来るって意味わかるか?」
「…意味って…ただ立派になって帰ってるだけじゃん…」
「それだけのつもりはない」
彼の自信に満ち溢れたその顔は
まるで『咎めるな』と言っているようだった。
そしてしばらくして
彼は本当に行ってしまったのだ__。
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