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市原さんと出会ってから二週間が過ぎた__。
幸い足のケガは軽い捻挫だけで済んだ。
お医者さんの言う通り
ニ週間で足首の捻挫は完治した。
私は、完治したその日から早朝ランを開始した。
久々のランニングだけど足取りは軽い。
足取りが軽いのはルーティンをこなせるから?
いいや、それだけが理由ではないと自分自身でわかっていた。
市原さんと会えるかもしれないからだ。
まだ名前と職業しか知らない。
連絡先も住む場所すらわからない中で
たった一つの手がかりは
あの日出会ったあの場所だ。
あの日と同じようにルーティンをこなせれば
あの公園で会えるかもしれない。
私は、無我夢中で走った。
いつも感じていた風景や人や街の音すらも
感じる余裕なんてないぐらいに。
ただひたすらに、
彼と出会ったあの日と同じ道のりを
同じスピードで走った。
あの公園に着いた。
いつものように
公園のランニングコースを走り出す。
いつも以上に周りを見渡し、彼の姿を探した。
だけど出会ったはずのタイミングと場所になっても
彼の姿はどこにもなかった。
結局、いつものように二周走り終えても
彼の姿は見つからなかった……。
私はあのベンチに向かって歩いた。
走る気力はもう残っていなかった。
ベンチに辿り着いて、座り込んだ。
期待が大きかった分、失望も大きかった。
もちろん勝手な期待だっただけに、どんどんと負の感情が流れ込んできた。
もう会えないかもしれない。
よくよく考えたら、「お気に入りのランニングコースになるかも」と言っていただけで、「ランニングコースにする」とは一言も言っていなかった。
彼にとって私はただの"要救助者"ってだけで、
使命感から助けてくれただけ。
彼の言った「なんだ、大学生か」の言葉。
この二週間の間で、勝手に彼の存在が私の中でだけで大きくなっていた。
冷静に考えればわかるのに。
浮かれていた自分が恥ずかしくて仕方がない。
額から流れる汗をタオルで拭いていると
自然とそのままタオルで目を覆っていた。
タオルで目を覆うと、誰にも見られない安心からか
涙が勝手に溢れ出てきた。
会いたいのに
もう会えないかもしれないと考えただけで
喉の奥がギュッとなって苦しい。
どれほどの時間泣いていたのかわからない。
もう涙が出なくなった。
こんなに泣いたのは高校の卒業式以来だ。
泣きすぎてきっと酷い顔に違いない。
このままここにいてもどうしようもない…
無い気力を振り絞って私は立ち上がった。
と、その時__、
「おい!」
二週間前、
一日のほんの数分しか聞かなかったその声に
振り向かずとも
私の胸の鼓動は再び高鳴ったのだ__。
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