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プロローグ
「18番から21番までの人どうぞ」
「はい」
男たちは部屋の中へと入っていく。しばらくして出てきた男たちの顔は曇っていた。審査員の反応に手応えを得なかったのだろう。
「22番から25番までの人どうぞ」
案内をする人は機械的に番号を呼んでいく。案内人の声が廊下に冷たく響く。廊下は手とジーンズを擦り合わせる音や小さな吐息で包まれていた。中には手に何かを書いて口へ運ぶ人もいた。小刻みな貧乏ゆすりをする人もいた。額をハンカチで拭う人もいた。
しかし部屋から出てくると皆同じ面持ちだった。足取りは重く顔は下を向いていた。目元はしっかりと開いていない。誰かに話しかけられても一言だけ言って去ってしまった。
「65番から最後までの人どうぞ」
4人が立ち部屋へと入っていった。案内人も部屋へ入る。廊下にはもう誰もいない。
しんと静まり返った廊下にとん、とん、とん、と屋根に何かが当たる音が響く。その音はだんだん大きくなり、ついには廊下の隅に水の落ちる音がした。
部屋から男たちが出てきた。雨の音でより気持ちが落ち込んでいる。視線も下ではあるが同じ方向を向いている。その方向にいたのはある1人の男だった。その男は顔を斜め上にして大股で他の男たちとの距離をぐんぐん離し廊下を曲がっていった。男たちはその男と逆方向へと曲がる。そして扉を開けて外に出て持っていた鞄を頭の上に覆い駅の方向まで走っていった。
「ふー、スッキリした。お、雨止んでんじゃん」
トイレから出てきた男はハンカチで手を拭きながら窓から外を見ながらそう言った。
その一週間後、合格発表のメールが男たちの元に届けられた。
多くの男は予想通りの結果に大きな希望を乗せてしまったばかりに落胆してしまった。神社へお参りにいった人も落胆した。その結果をもはや見ない人もいた。結果が分かりきっているからだろう。
ある男は届いた手紙の封を切って内容を見た。それはあの時1人顔を斜め上に向けていた男だった。
『不合格
──ご縁がなかったようで──』
この文字が男の目に止まった。すぐに男はそれをシュレッダーにかけて粉々にした。
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