窮地

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それから、朝比奈君と入れ替わりでシャワーを浴びた私は、パジャマに着替えるとベットの下に置いていた収納袋を引っ張り出していた。 田舎から親や弟が泊まりに来た時用に、買っていた布団一式だった。 「私は寝室のベットで寝るから、朝比奈君はこの布団使って。」 私はリビングのローテーブルを端に立てかけると 来客用の布団を床に敷いていく。 その様子を、不満げな表情で後ろから見守る朝比奈君。 「先輩…───?」 「えっ?」 「せめて一緒の部屋に敷きませんか?」 「エッ、、なっ、なんで?」 私は、朝比奈君の提案に思わずギョッと目を剥いた。 いや、付き合ってるのだから一緒の部屋で寝ることは、当たり前のことなのだけど…。 まだ先輩後輩の関係が拭いきれない私はその提案に戸惑ってしまう。 「別々の部屋で寝たら、理性があるのかどうか 分からないですよね?」 確かに…。 「いや、でも…───。」 お酒飲んでるからいびきをかくかもしれない。 寝相だって良いとは言い難い…。 「先輩がいびきをかいても気にしませんし」 「!?」 「寝相も僕も良い方ではないので…───」 この子は人の心の内が読めるのではないかとたまに疑いたくなる。 それか、そんなに心の声が顔に出ているのか……。 「…フッ…顔に書いてますよ」 どうやら顔に出ているらしい…。 ハッと頬に手を当てた私を見て、朝比奈君はクスリと笑った。 「では、交渉成立ということで」 朝比奈君は、にこりと笑みを浮かべると、私が敷いた布団を持って 寝室へと遠慮なく入っていく。
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