樹海のコンビニ

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建物中を覗くと、電気はついていた。一応営業はしているようだ。 「いやっしゃいませこんにちはー」  入店音と共に元気な店員の声が響く。店内は、一見その辺にあるコンビニと変わらない。 「予想以上に普通で驚いとるんやけど」 「そんなことより『ふぁみチキン』頼も」  青木くんは食欲が優っているようだ。ウチは『唐揚げさん』を……。 「いやなんでふぁみチキンと唐揚げさんが同居してるん?」 「『ナナチキン』もありますよー」  店員が爽やかに答える。 「いやあっちゃいかんやろ」 「ケンタなフライドチキンもありますよ」 「なんでもありすぎやろ」 「コンビニなので」  店員はにっこりと笑う。 「じゃあ、ふぁみコロください」 「ありません」 「なんでないん?」  なんでもあるんじゃないの? 「なんでもはありません、あるものだけ」 「あ、アニメ好きですか店員さん」 「いえ、見てません。人間強度が下がるから」 「はい見てますね」  少なくとも異常な首傾げが見れるアニメは観ているはずだ。 「お腹すいた、店員さん『ふぁみチキン』ください」  青木くんがお腹をさすりながら注文する。 「お待たせいたしました。袋はどうされますか?」 「なしで」  そういえば、『ふぁみチキン』も『ナナチキン』も『唐揚げさん』もあるこのコンビニのポイントカードはどれなんだろう? 「Jポイントカードはお持ちですか?」 「いや、Jポイントカードって何?」 「あります」 「いや青木くん持っとるんかい!」  TでもPでもRでもdでもなくJってなんなん? 「え、が原さんJポイント持ってないの?」 「なんか文房具を凶器として使ってそうな人になるからその呼び方やめて」 「そしたらカバさん」 「それもやだ」 「そしたらバカさんでしょうか」 「あの店員さんまで入ってくるのやめてくれます?」 「おっとすみません、そうマニュアルに書いてあったので」 「どんなマニュアルや」  ちょっとツッコミ疲れてきたな。 「それで、お客さまのお名前はなんなんですか?」 「なんで店員さんに教えんといかんの?」 「この流れは気になるじゃないですか」  そんなの気にな……るか。気になるな。自分が店員さんの立場なら気になるわこの流れ。 「蒲ヶ原(かばがはら)です」 「が原さんとなるのは普通なのでは?」  なんか突っ込まれた。ツッコミ役のつもりでいたらツッコまれた。しかも真顔で。いや真顔でツッコむほどのことか? 「あとお客様、失礼ですがスカートから糸が出てます」 「あー、ここにくる時ツルに引っ掛けた時かなぁ。青木くん、ハサミかカッターある?」 「ない」 「それもそうか。店員さん、ハサミかカッター借りれません?」 「ないです」 「はい?」 「ないです」 「事務所にも?」 「ないです」 「なんで?」 「自殺に使えそうなものは置いていません」  あ、そういえばここ樹海だった。他にツッコミどころ多くて忘れていた。 「でも鎌ならあります」 「カッターとかより凶器になるやん」 「わざわざ自殺に鎌を使う人はいないだろうってオーナーが」  まあ、たしかにわざわざ使わないか。 「オーナーの父親は鎌で切腹したそうですが」  え、唐突にグロいって。そして切腹っていつの時代? そして自殺に使えているじゃん鎌。 「……もう、服の綻びはこのまんまでいいや。店員さん、唐揚げさんください」 「かしこまりました。袋は」 「なしで」 「ポイントカードは」 「ないです」 「かしこまりました」 「気になっているんですけど、Jポイントカードってなんなんですか?」 「樹海ポイントカードです」 なんかやばいもの溜まりそう。 「お待たせしました」 「ありがとうございます」
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