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犬系男子早瀬
俺は生まれつき、体の筋肉が弱く、上手く力が入らない。スプーンやフォークすら上手く持てないし、苦労ばっかりだけど、辛いとは思わない。俺は力が入らない、歩けないこと以外は皆と同じ。なのに何故嫌味を言われるのかわからない。
「浦田くん、顔はイケメンなのに障がい者とか残念すぎ」
「それな?」
「‘’障がい者じゃなかったら‘’ 付き合いたかった」
『障がい者じゃなかったら』ってよく聞く。だいぶ慣れたけどそれでも胸がチクチク痛む。
俺だってこんな身体に好きで産まれたわけじゃない。俺の苦労なんて知らないくせに。
そう思ってしまう。
でも、そんな俺に積極的に話しかけてくれるヤツがいる。
「ねぇねぇ、一樹は俺のこと好きー?」
何故か一日一回は聞いてくる。
「あぁ」と言ったらムッとするし、「さぁな」「どうだろう」「別に」と答えてもムッとする。
今日も今日とても、同じ回答をした。
「あぁ」
「もーっ!好きって言ってよー!」
でっかいワンコだな…。
俺も平均よりは高いけど、コイツはデカすぎる。
「あー、はいはい。好きだよ」
「っ!!」
目をキラキラ輝かせて、「うっ」とか変な声を出してから、鼻を押さえた。
「…?なにしてんだ?次移動教室だろ?行くぞ」
「待って…鼻血が…」
「大丈夫?保健室行く?」
「ううん。車椅子押すよ」
「そうか。ありがとう」
早瀬は楽しそうに率先してやってくれるから嬉しいしありがたい。
「早瀬は俺の世話とかめんどくさく無い?」
「え?!なんで?楽しいよ?」
「そっか…」
思わず頬が緩む。ふにゃ、と崩れた顔で見上げると、早瀬は、頬を赤らめて、ビクッとした。それから、ゴクリと固唾を飲んだ。
「?早瀬?」
「はっ…!い、行くよ!!」
車椅子を勢いよく押して、走り出した。
「うぉぉおお?!早瀬っ、止まれっ…!!」
ブォンッ!と音がしそうな程の勢いで怖い。通り過ぎた先生も目を丸くしてから、怒った顔をして追いかけてきた。
「こらぁっ!早瀬!待て!!」
「わっ、逃げろ〜!」
なんで楽しそうなんだ?!校則違反!ダメだろ!怒られるぞ?!
俺たちは、すぐに先生に捕まった。
「早瀬、もし浦田が車椅子から落ちてたらどうしてたんだ!責任取れんのか?!」
「す、すみません!つい!」
「ついじゃねぇ!」
こっぴどく叱られて半泣きになる早瀬。
「だってぇ…一樹が可愛いから……」
俺は先生と2人で、「はぁ?何言ってんだ?」って顔で首を傾げた。
「そんな言い訳は聞かん!!生徒指導室まで来い!」
「はい……」
2人が歩き出してすぐ、声をかけた。
「あの、俺はいいんですか?」
「ん?迷惑かけられたのは浦田だろ?なんでお前が指導受けるんだ?」
「そうだよ、僕のせいだから一樹は悪くない」
すごくニコニコ笑顔で言われた。
……そっか。
「じゃあ、また後で」
言って、クルリと向きを変える。
自力で車椅子を漕ぐのは、久々な気がした。
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