19人が本棚に入れています
本棚に追加
※〜番外編〜初めての夜
「早瀬…ホントにするのか?」
「うん、怖い?」
俺は大きな身体に包まれている。背中にドクドクと激しい心臓の音が伝わる。
「早瀬も緊張してる?」
「当たり前。好きな子抱くんだよ?」
「うん…うん?」
「ん?僕変なこと言った?」
「いや……」
言った。抱くって。え?
俺……女役なのか?
なんで?って思ったけどすぐに、そりゃそうか。と思った。
手足にほとんど力入らないのに男役できる訳ないか。マグロなんて絶対嫌だし。
「……分かった。頑張る」
「ありがとう。嬉しい…!大好き、愛してる」
尻尾をブンブンと振っているように見えて可愛い。
「お、れもっ…」
見上げると、雄の顔をした早瀬がいた。
「っ……」
思わずゴクリと唾を飲む。
顔が降りてきて、唇が重なった。
「ん…ふふ」
触れるだけのキスは何度もしてきた。けど、まだ大人なキスは一度もしたことがない。
……するのか?
そんなことを考えてドキドキしていると、早瀬の舌が、ツンと唇に触れた。
「…一樹……いい?」
「ぅん…」
離れた唇をもう一度重ねる。舌がすぐに入ってきて、俺の舌に触れた。
「っ…!ぁ…」
ツンツンと何度か舌同士触れていたのが、いつの間にか深く絡む。
「んっ、…ふぅ……、んんっ」
舌が動くたび、ちゅぷ、くちゅ、と卑猥な音がする。
「あ、やぁ…っ」
「んー?」
早瀬は楽しそうに、幸せそうに笑う。
「お、とっ…やらぁっ……、んむっ」
「音?…ふふ、わざとじゃないよ?」
「んぅ…れも、これやらっ、きもちぃ…」
脳も身体も溶け切ったみたいにトロンとする。ふわふわ、ポーッとして気持ちいい。
「っ!かわいーっ」
少し驚いたように目を見開いてから、俺の舌を甘噛みした。
舌も身体もビクンと跳ねる。
「あ、ゃっ、ぁ…」
「ふふ…」
「ん、ぁ…ぅ?」
なんで笑ってるんだろ。
「イケメンで、細いけどしっかりした男なのに、こんなに可愛く喘ぐなんて誰が想像するんだろって思って」
「なっ、だ、誰も想像しない…!」
「えぇー?僕はしてたよ?」
「?!」
してたのか?!目を丸々にすると、当たり前って顔でこう言った。
「え、好きな子で想像しない?」
俺、付き合ったことないし、好きになったこともない。恋人自体が初めてなのに、想像つく訳がない。
「えっと…俺恋人や好きな人ができたこと自体が初めてだから…」
言うと、ニマニマと嬉しそうに笑った。
「じゃあ、僕が最初で最後だね!」
「?そうなのか?」
「うん、なにがあっても絶対離さないから」
ブンブンと見えるはずのない尻尾を振った。
▱▱▱▱▱▱
それからはもう凄く優しく抱かれて、『もういや、おかしくなる』って訴えてもやめてくれない。
頑張って腕に力を入れて上半身を起こしたけれど、直ぐに力が抜けてガクンと倒れ込んだ。
『一樹』『大好き』『可愛い』ばっかりで、言われるたびにキュンキュンして心臓持たない。
重い瞼を上げると、眩しい光に顔を顰める。
「はやせ…」
「あ、起きた?」
俺の顔を見るとブンブンと尻尾を振った。
「腰と喉がいたい…」
「ゔ…ごめんね。一樹と付き合えて一つになれると思ったらたまらなくなって…怒ってる?」
シュン、と耳と尻尾を垂らしてチラッと俺を見た。
「いや、全然」
「ホント?よかったぁ〜」
ホッとしたように胸を撫で下ろした。こんなに表情がコロコロ変わる人はあまり見たことがない。と、いうか誰も俺に関わろうとしなかったから。諦めていたところもあるけど1人は寂しかったし、陰口を言われるのは悲しかった。けれど何故か早瀬は俺と関わろうとするしウザいなんて思ってたけど本当は嬉しかった。暗かった世界を明るくしてくれた。
「はや……いや、拓馬」
「っ!な、なに?」
ビクッと身体が大きく跳ねて、嬉しそうに抱きついた。
「俺、拓馬のこと好きだ。ずっと一緒に居てくれるか?」
拓馬の手を握ると、こぼれ落ちそうなくらい目を見開いて、ボロボロと涙をこぼした。
「うぅ〜、そんなの当たり前だよぉ〜」
涙が止まらなくなった拓馬がなんだか可愛くて、クスッと笑いながらそっと抱きしめた。
最初のコメントを投稿しよう!