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ラン僕ギーニ
「ラン僕ギーニ」
奏多がそんなあだ名を付けられたのは、結婚して二年が経った頃だ。人疲れしてすぐ自宅でダウンするようになった夫を、桃子はイタリアの高級車をもじって明るくからかった。
「奏多はさ、カッコいいけど燃費が悪いんだよね」
「俺って、カッコいいの?」
「自分でも分かってるでしょ? 高校のときからモテ男だったくせに」
「それは俺が、成績優秀でバスケ部のエースで陽キャだったからだろ?」
「おぉ、言うじゃないの」
ケラケラ笑う桃子が可愛くて、就職して明らかにスペックの低下した夫にも変わらずに接してくれる優しさが愛しかった。
奏多と桃子は高校の同級生だ。高校時代は男女八人の仲良しグループにいて、付き合い始めたのは附属の大学に入ってから。お互いに社会人になり、交際五年で結婚の運びになったときには、まわり中に「お似合いの夫婦だ」と祝福された。
桃子は聡明で気さくで、ルックスもいい。男の理想を具現化したような女性だと、奏多はよく男友達に羨ましがられる。奏多自身も、そんな女性と赤い糸で結ばれていた運命に感謝していた。
けれど。
今になって思う。そんな運命、蹴飛ばしてやればよかった。むしろ、彼女を蹴飛ばすようなDV男を演じてでも、桃子と離れておくべきだった、と。
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